見守る者
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その後、クロエと美月は一度コットニー地区を離れ、別の場所で巽を取り返す作戦を立てることとなった。最初、美月は意地でもその場から離れようとしなかった。だが、クロエの粘り強い説得によって美月は折れた。
彼女達なりに考え、行動を起こす。それは、この世界に生きる者達にとって大きな意味を持つだろう。けれど、このモノガタリ上では、茶番と化す。何故なら、全て決まりきったことだから。全てが台本通りに進んでいることだから。
イレギュラーを起こせる存在など、滅多に生まれてこない。生まれてこないからこそ、この世界は何も変わらない。変化を望んでも、この世界の正体に気付いても――自分自身で何も出来ないのなら、平凡な存在と何ら変わりない。このモノガタリのイレギュラーには成り得ない。
(さてさて、こっちはどうだ?)
いくらかいるモノガタリのキーマン。コットニー地区にいるアーリヤとその下々の者達。私の愛するイレギュラー――アレス、いやアレンが生み出したこの世界の闇そのもの。彼らの望みは、混沌と殺伐さに満ちた世界で生き続けること。そこから生まれるのは、果てしない絶望のみ。きっと、それは平凡な多くの者にとって不幸をもたらすだろう。
(失敗は成功のもと、そんないい言葉があった。今度こそ、上手くいくといいね。イギリスだけではなくて、世界全てに争いを広げられたら……アレンの勝ちさ。そういえば、対抗馬は何をしてるんだ?)
続いて、視線を向けたのはタレンタム・マギア大学で鍛錬に励む選抜者とやらと、それを熱心に指導する太平を司る龍。今は、ジェシーとかいう人間の体内に宿っているようだ。長い人間生活の中で、彼は人間らしくなった。それを嬉しくも、悲しくも思う。私にとって、龍は子供同然の存在だから。
(ジェシーと白いカラス。かつての勝者。玉座で胡坐をかかないのは、素晴らしいことだ。いや、白いカラスの本来の目的から考えると……勝利とは言い難いか)
その背後で車椅子に座るベールに包まれた男。この世界にとって特殊でも、このモノガタリでは平凡な存在。選ばれたが、選ばれなかった男。いつも周りに誰かいる。けれど、この男は常に孤独だ。きっと、それは彼の境遇が関係あるのだろうが、今は大して考えるべきではないだろう。
(優れたカラス、捨て駒……全てを知っているのに、それでも白いカラスのそばにいる)
白いカラスの隣で悠々としている男二人組、エトワールとヴィンス。間近に迫る、自分達の処分を察していても平然と構えていられるおかしな精神の持ち主達。白いカラスの傍にいるくらいだから、当然かもしれないが。
(おかしな奴らの集まりと、イレギュラーのいる集まり。一体、どちらが先にしかけるのか。その時が来るまで、ゆったりと見守ることにしよう)
この永い争いに、決着が来る日――それでこの世界の命運が決まる。私は、ただそれを見守ろうと思う。この世界の創造主として。




