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恥で弟を救えるのなら

―美月 コットニー地区付近 夕方―

「――なるほど。あんたと巽の関係はよく分かったわ」

「ま、信じる信じないはそっちの勝手だけどね」


 子供のくせに偉そうな赤髪の少女の名は、クロエ。王の命令により、巽がこの国に滞在している間の監視者として任を担っていたらしい。が、悪意を持った様々な者の手によって、巽と引き裂かれてしまうこととなったらしい。

 こんな少女一人に、重要な仕事をさせるからだ。一体、国王は何を考えているのか。


「信じるわ。だけど、少し気になる。人を年齢で判断するつもりはないのだけれど、普通こんな重要な仕事を子供に任せるものなのかしら? いくら、あんたが才能に満ち溢れている存在だったとしても、少し浅はか過ぎないかしら? 子供だけに任せているなんて。せめて、一人くらい大人がついているべきじゃないの? この国の王は、一体何を考えているの?」


 私がそう疑問を投げかけると、クロエは小さく鼻で笑った。


「フッ」

「何? 何かおかしいの?」

「国王は、巽君自身のことなんて何一つ考えていないわ。あの人が考えているのは、巽君の中にある力のことだけ。それ以外のものは、器としか捉えていない……」

「それって、巽を、私達を騙していたってこと? だって、絶対的な安全を保障することを前提で話を進めていたと聞いたわ。巽の力だけ? じゃあ、巽の力に影響がなければ何があってもいいって思ってたってことなの?」


 許せない。許せないけれど、その怒りは外に出そうとすると消えていく。だから、きっと彼女には冷めた姉に見えていることだろう。


「そういうことになる。こういう言い方をするとアレだけど、貴方達の国なんてこの国から見れば、大した脅威でも何でもない。利用価値があるかないか、ただそうとしか捉えていない。特にあの人は」

「巽だけでなくて、国まで侮辱するなんてね。舐められたものだわ。こんな国に巽を置いておけない。同じ王族として、心の奥底から軽蔑するわ。なんて――」

「この国の王族の血は、遥か昔に途絶えてる」

「え?」

「だから、王族としての誇りも何もない。あの人は、皆を欺くのが得意なの。自国の者だって、もう何百年と騙されてきた。国民も城で働いている者達も、王の姿なんて見たことがないわ。本当に一部しか、彼の正体を知らない。今、この時代で本当の王を見たことがある者は私達以外にいない。それでも、何にも言われないのは……王が姿を見せないことすっかり常識になってしまったから。これくらい言ったら分かる? 貴方達は信じるものを誤ったの」


 王が王ではない。少し違うけれど、これはまるで――今の私達の国のようではないか。一部の者が協力して、大勢を騙す。やっていることは、ほぼ同じだ。

 けれど、巽を利用し巻き込んでいるその男を私は許す訳にはいかない。自分達は許して相手は許さない、恥ずかしい行為であることは理解している。

 でも、結局大切なのは自分達自身――その恥で大切な弟を救えるのなら、私はどんなことだって背負える。

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