姉と監視者
―美月 コットニー地区付近 夕方―
すっかり日も暮れて、ひっそりとした静けさが辺りを包んでいた。アシュレイと別れてから、かなりの時間が経ったことを理解した。
「巽どころか、人っ子一人来ないじゃないの……」
真っ白なレンガで構成された建物ばかりが並ぶエリア。ありとあらゆるものが白。他の色など受け付けないと言わんばかりの白さ。あらゆる生物も拒絶しているかのよう。だから、だろうか。この辺でアシュレイさん以外の人を未だに見かけていないのは。
(一緒についていけば良かったのかしら? でも、あんな奴と一緒にいるなんて嫌だし……ここにいれば、すぐに会えるって言って……もしかして、私を騙したとか? 今頃、私をどこからか見てたりして?)
あいつを信じることが出来ない。でも、例え嘘であっても外に出ることが私には重要だった。あのまま拘束されていたら、巽を探すことすら叶わなかったのだから。
(とりあえず、明日まで待ってみよう。そこで巽が来なかったら、自分の力で至る所を探してみよう。巽……大丈夫よね?)
今の私には願うことしか出来ない。巽が無事であることを、どこかで馬鹿みたいに生きていることを。それで見つけたら、思いっ切り殴らなくてはならない。
そんなことを考えながら、ぼんやりと夕暮れ時の空を眺めていた時であった。
「――たっぁ!」
突如、視界が歪んでそこから赤い髪の少女が落ちてきた。
(何!?)
「いててて……」
少女はお尻を押さえながら、フラフラと立ち上がる。そして、そこで目と目があった。
「あ」
「え?」
少女は、何かに気付いたかのように声を上げて私の顔を覗き込む。
「……もしかして、巽君と何か関係があったりする人? 見た目的に」
「巽のことを知っているの?」
彼女の口から出たのは、私が捜し求めている人物の名。巽がどんな人物と関わっているかどうかまでを知らなかったので、この出会いは大きいと確信した。
「知ってるよ。というか、全然驚かないんだね。普通のことみたいに受け流すなんて」
「内心かなり驚いているわ。急に女の子が現れて、巽のことを知っていて、私を巽と関係があるのかどうかまで聞いてくるんだから。初めてにはしては、かなり馴れ馴れしいし」
「もう色々とあり過ぎて、変化に鈍感になってきてるせいで現象に対して、かなり自然に受け入れられるようになったみたい。簡単に言えば、近所で知り合いに似てる人がいたからうっかり声かけちゃった状態というか……そしたら正解だったって感じで」
「別にいいけど、で……貴方と巽はどういう関係なのかしら。詳しく説明して貰うわよ」
この子には、只者でない気配を感じる。きっと、巽に繋がる重要な何かを知っているはず。私は、それを掴んでみせる。




