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失敗作

―アーリヤの邸宅 夕方―

 かれこれ数時間、クッキー作りに格闘し続けた。そして、ようやく完成した。一回目は失敗に終わり、二回目で何とか美味しそうな物が出来た。


「シンプルな丸いクッキーを作るのに、まさかこんなに疲れることになるとはな……お陰で最初に焼いた奴は丸焦げだ」


 ドライアドさんは、一枚の茶色く焦げたクッキーを手にとって眺め、眉をひそめる。その光景を見た瞬間、僕は思い出した。ドールから、茶色いクッキーを作って欲しいと頼まれたことを。


(そういえば、茶色いクッキー……! ドールは、まさか焦げたクッキーのことを言っていたのか?)


『……茶色いクッキーですわ! とても香ばしいんですの。とっても美味しそうですの』


 香ばしさなど微塵も感じない。鼻につく嫌な臭い。見た目も茶色く焦げていて、食欲を下げた。成功した方のクッキーであれば、香ばしく美味しそうだと思えた。比較してみたが、どの観点から見ても失敗作に魅力を感じなかった。


(まぁ、深く色々考えても仕方ないか。美味しそうなクッキーとは言われたが、美味しいクッキーとは言われなかったし。僕的には香ばしさは微塵も感じないが、とりあえず大事なのは見た目だよね)


「……あの」

「どうした?」

「この茶色いクッキーを全部貰っていいですか?」


 僕がそう尋ねると、彼女は目を見開いた。


「正気か!? 苦味しかないんだぞ?」

「……別に僕が食べる訳ではないので。このまま、ゴミになってしまうよりかはいいでしょう」

「まぁ、それもそうだな……まさか、あの子供に食べさせるのか?」


 彼女は、背後で柱で鎖に縛られたクロエを指差す。


「はぁ!? いらないいらない! 全部会話聞こえてるし、くっさい臭いがヤバイし。失敗したって感じの会話聞こえてたし。成功したのがあるんだから、それを頂戴よ! もうお腹ぺっこぺこ!」


 クロエが、怒気を含んだ声で叫ぶ。


「心配しなくても、クロエにはちゃんと成功した方をあげるよ。元々それが目的だった訳だし。これをあげるのは……これを望んだ子だよ。嫌がらせでも押し付けでもない」


 ドールが望んだのは茶色いクッキー。となれば、目の前にある失敗作はそれに当てはまる。僕が作ったことは間違いないのだ、きっと喜んで受け取ってくれるだろう。


(所詮、彼女は人形だ。美味しいだの不味いなど、そういう感想を述べるとしても真似事でしかないだろう。そんな相手の為に、試行錯誤をする必要はない。ドールなら、恐らく作ってくれたという事実だけで十分喜んでくれるさ……)


「なるほど、はは……分かったぞ。お前が、この失敗作を与えようとしている奴の正体が。本当に捻じ曲がった奴だな。あいつは悲しいくらいに真っ直ぐなのに……滑稽だ、実に滑稽だ。結果を楽しみにしている。さて、私はこれで失礼する」


 ドライアドさんは不敵な笑みを浮かべ、最初に持っていた皿に何枚かクッキーを乗っけてキッチンを出て行った。

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