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シュガーオアソルト

―アーリヤの邸宅 昼―

 キッチンは、僕の想像よりも遥かに質素な造りだった。あのレストランの厨房や、自国の無駄に豪華な厨房を見てきたからかもしれない。器具も少ないし、広さも比較すると狭い。

 そして、何より――温かみを感じられなかった。


(こんな所で本当に美味しい物が作れるのだろうか?)


「どうした? 作らないのか?」


 僕が部屋に入ってすぐに立ち止まっていると、ドライアドさんがパンのような物が乗っけられた皿を持ってこちら側を睨み急かしてきた。


「言われなくても作りますよ」

「それは良かった」


 僕は鎖を近くの柱にくくりつけて、足早にドライアドさんの隣に立った。


「もはや、説明もなくここに縛られるってね……別にいいけど」


 クロエは、ため息を漏らした。


「それで? クッキーにはどんな材料を使うか分かっているんだろうな?」

「……何となくは。けど、それがどこにあるのか分からないんです」

「そんなことだろうとは思ったよ」


 ドライアドさんは、呆れた様子で僕を見る。そして、キッチンの至る所から手際良く材料や器具を取り出して、目の前の台に置いた。


「探すことに手間をかけられては困るからな。さあ、さっさと作れ。姫君の為にも」

「分かってますって」


(う~ん……全然分からないな。用意してあるこれを使うことは間違いないんだろうけど)


 ちらりとドライアドさんに視線を向けた。


「……本当にもう分からないのか?」

「だから言ったじゃないですか。やり方を教えてくれと。僕には、一人で料理を作った経験がないので。というか、そもそも料理すらまともに作った記憶がないんですよ……」

「出来ないことをそんなに堂々と言うな。まぁ、私から言ったことだ。私は嘘つきではないからな。隣で作り方を言ってやるから、ちゃんとやれ」

「感謝申し上げます」


 僕が笑みを向けると、彼女は不快感を滲ませた表情を浮かべた。


「バターをボウルに入れてそれで掻き混ぜろ。私が良しと言うまでな」


 

 彼女は、四角く黄色い物と丸い入れ物と銀色の器具を順に指差しながら言った。どうやら、バターがクッキーの材料みたいだ。

 そして、僕は言われるがままに行動した。バターという材料をボウルという入れ物に放り込み、銀色の器具で掻き混ぜる。最初は硬くて大変だったが、執念深く頑張ると次第に掻き混ぜやすくなった。腕が少し痛い。鍛錬とは違う所の筋肉をよく使っているようだ。


「……よし、いいだろう。次は砂糖だ。それなりの量があるからな、お前はちゃんと計った方がいい」

「砂糖は分かりますよ」


 間違いない、僕はそう思って白い粉が大量に入った瓶を手に取った……のだが。


「違う! それは塩だ、馬鹿者! 姫君に塩辛いクッキーを献上するつもりか!」


 隣から飛んできた拳を寸での所で、僕は受けとめた。


(そんなはずは……)


「あっ」


 再び台に置かれた物を見てみると、もう一つ白い粉の入った瓶が用意されていた。


「塩は使う、だが今ではない。はぁ……気を取り直してやるぞ。次は――」

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