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顔を見られていないなら

―アーリヤの邸宅 昼―

「――おい、何故ついてくる」


 背中から殺意が伝わってくる。きっと、今彼女は般若のような表情をしているだろう。


「進行方向が同じだからですよ。つまり、偶然です。勘違いも甚だしいですね」


 そう、進行方向は同じだ。偶然ではなく必然であるが、そんなこと些細な問題だ。キッチンの場所が大したダメージもなく、判明したのは僕にしては珍しく幸運だった。


「……ねぇ、そんな風に言うと、女の人に半殺しにされちゃうんじゃない? そんな雰囲気出まくりだよ。一触即発というか」


 僕の隣を歩くクロエが背伸びをして、耳打ちをする。

 

「心配しなくても、ドライアドさんはそんなことはしないさ……」

「う~ん、でもなぁ……」


 クロエはどうしたものかといった様子で腕を組んで、それ以降は口をつぐんだ。


「進行方向が同じ……不自然だな」

「どうしてそう思うんでしょうか?」

「キッチンに行くことが目的であったのであれば、最初から行けば良かったではないか。わざわざ、私の部屋に立ち寄る理由が分からないな」

「だから、それも勘違いですよ。取っ手にゴミがついていたので取ろうとしたら、勝手にドアにからまっていたツタが消えてドアが開いて、ドライアドさんが出てきたんです」


 顔を見られていないから、嘘をついても平然としていられる。


「……はぁ、見事なまでに虫けらみたいな人間だな。あまりに見事だから、額縁にでも入れて飾ってやりたいくらいだ」

「面白い冗談ですね」

「チッ」


 そんな雑談をしている間に、ドライアドさんは一つのドアの前で立ち止まった。


「で? お前はキッチンで何をするつもりだ?」

「クロエがお腹が空いたというから、軽くクッキーでも作ろうかと思いまして」

「ほう……高貴な身分のくせに、自分で料理が出来るのか?」


 そこで、ようやくドライアドさんは振り返った。先ほどまでの殺意が嘘のような、僕に向けられる好奇心に満ちた視線。


「高貴な身分だと、料理が出来ないと?」

「そういうものではないのか。身の回りのことは、大抵使用人がやるではないか。掃除すら自分ではしないと聞いている、料理などもってのほかだろう?」

「まぁ……確かにそうですね」


 その指摘は間違いではない。僕も、クッキーを作って欲しいと頼まれるまでは作ろうなどと思ったこともなかった。経験もないし、一度見た程度の作り方でクッキーが出来るかどうか不安だ。魔術であるから大事にはならないと思うが。


「心配だな。下手に料理をして、屋敷を破壊などされてしまったら困る」

「はぁ……魔術で作りますからそんなことは……」

「姫君は手作りしか好まない。魔術で作らぬのであれば、お前が作った物を姫君に持って行ってもいいかもしれないと思ったのだが……ふん、ならば仕方ない。お前がヘマをしないように、監視するだけ――」

「そうならそうと先に教えて下さい。アーリヤ様の好みに沿います。でも、やり方が分からないので教えて下さいね? ドライアドさん」


 普段であればプライドが邪魔をするが、アーリヤ様が関わるならそれは別だ。何が何でも作り上げなければ。


「本当に勝手な奴だな。しかしまぁ、姫君の為を思うのであれば特別に協力してやろう。行くぞ」


 そして、僕はドライアドさんの後に続いて部屋に入った。


(これは儲けたな……フフフ)

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