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樹木の精霊

―アーリヤの邸宅 昼―

 そう言い放ったドライアドさんの手には、茶色いだるまのようなパンがあった。


(甘い匂いはあれか)


 甘い匂いの正体は、キッチンにある食材によるものではなかった。期待は外れ、ただただショックだった。


「人の部屋に入る時はノックくらいするものだろう? 高貴な身分の者なら、その辺りの常識は身についているものだと思ったのだがな。で、何か用か?」

「いや……特に」

「なんだ? その反応は? 普段から腹立たしいのに、余計殴り飛ばしたくなるな。それに……姫君の許可も取らず、勝手に客人を招き入れるとは無礼の極み。今すぐ、ここで首を落としてやりたいものだ。それで、お前の命の灯火が消えるのであれば、だが」


 彼女はそれを小さく千切って食べながら、僕に歩み寄った。敵討ちの相手を見るかのような目で、僕を威圧する。嫌われていることは自覚しているので、今更それで傷付いたりはしない。

 僕の目の前に彼女が立った時、クロエが移動してくるのが見えた。鎖が無機質な音を立てて、激しく主張する。勝手な動きをするなと鎖を引っ張ったのだが、クロエはそれを気にする素振りを見せなかった。


「……ねぇ、もしかして貴方は精霊さん?」

「そうだが」

「精霊!?」

「見て分からなかったの? 特徴的な緑の髪、神話のドライアドと同じだと思って。まさか、この目で精霊を見る時が来るなんて思わなかったわ」


 クロエは少し軽蔑する目で、僕を見た。そんな目で見られても、僕の国にそんな精霊の伝承はなかったのだ、この国の民ではない僕に分かるはずもない。


「若い娘が、まさか私のことを知っているとはな……驚いた」


 ドライアドは感心した様子で、腕を組み頷いた。


「森の木々にはドライアドが住んでいるから大切にするんだよって、よくパパに言われてたから……」


 クロエは、悲しそうな声で言った。


「へぇ、カラスの中には立派な親もいるのだな。まぁ、鳥族は昔から自然を大切に慈しむ。人間とは違う。そこは評価しよう」

「人間が嫌いなの?」

「嗚呼、大嫌いだ。罪の意識の欠片もなく、全てを奪う。自分達の為なら、他のもののことなど一切考えない。その暴虐無人さが、奴らがこの地にのさばる原因となった。他者の気持ちなど理解しようともしない。訴えにも鈍感で、本当に腹が立つ……滅びてしまえばいい。いなくなってしまえばいい。心の奥底から……常々そう思う。いなくなってしまえば、こんな感情を抱くこともないのだろうから……」


 そう漏らす、ドライアドの声色には憎しみの中に悲しみが含まれていた。

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