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虚像の自然

―アーリヤの邸宅 昼―

 寂しそうに既に誰もいない廊下を見つめるクロエ。僕は、その背中をただぼんやりと眺めていた。


(アシュレイさんがどうしてこの場所に? 警察であるあの人が、ここにいる理由はなんだ?)


 ふと、そんな疑問が脳裏によぎった。僕は、何も知らない。キッチンの場所やアーリヤ様の部屋の場所、仲間達の部屋の場所、皆の関係性……僕は初歩的なことから大事なことまで、何もかもを知らない。これでは、昔と何も変わらないではないか。


(せめて、初歩的なことくらいは自分の手で見つけ出さなければ……!)


「……行くぞ」


 僕は焦りを覚え、鎖を強く引っ張り、無理矢理クロエを連れて行く。


「いっ! 分かったって」


(僕にしか出来ない方法で……探す。キッチン特有の臭いがあるはずだ。全神経を鼻に集中させるんだ。必ず、見つけ出す)


 普段から異常な嗅覚、意識を集中させるとさらにそれが増す。この廊下に使われている素材の匂い、アシュレイさんの匂いも感じた。


(違う。この匂いじゃない。キッチンと言えば……食材の匂い。もう少し移動してみよう)


 僕は匂いを見つけ出す為、ゆっくりと歩を進める。すると、徐々にどこからか甘い匂いを感じた。お菓子のような、美味しそうな匂いだ。僕は、それを辿りながらその正体に接近する。


「ちょっと! 痛いってば!」

「うるさい、今集中しているんだよ。黙ってついてこい」

「も~……」


 そして、とあるドアの前に僕は辿り着いた。しかし、そのドアは通常の物とは異なっていた。木製のドアに、白い花の咲いたツタが絡まっていたのだ。廃墟になって何年か経ったかのような雰囲気に、少し自信がなくなった。


(本当にここであってるんだよね? いや、僕のこの嗅覚に間違いはないはずだ。間違いなく、この部屋の向こうから漂ってくる)


 僕は意を決して、そのツタだらけのドアの取っ手に触れた。途端に、瞬く間にツタが溶けるように消えた。何事かと理解が及ばなかったが、どうやら部屋は僕を歓迎してくれているようだ。


(行こう)


 ドアを開けてみると、そこに広がっていたのはキッチンではなく、緑色の空間だった。予想外の光景に、僕は唖然としてしまった。しかも、ドアを開けた途端、小鳥のさえずりや優しい風の音色が聞こえてきた。

 だが、そこから自然の香りは一切しない。感じるのは無機質な部屋の臭いと甘いのお菓子のような匂いだけだった。


「は……?」

「え? 巽君、ここ外?」


 クロエは困惑した声を漏らす。


「外ではない」


 すると、奇妙な自然に溢れた部屋の中から美しい緑髪の女性が不服そうな表情で現れた。


「ここは私の部屋だ。私の食事中に何か用か?」

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