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薔薇色の三重生活

―アーリヤの邸宅 昼―

(キッチンは……あるよな?)


 あるものだと思って部屋を出てみたが、そういえばどこに何の部屋があるのかさっぱり分からない。どうしたものかと立ち往生していると、不思議そうにクロエが問いかけてきた。


「どうしたの? 進まないの?」

「いや……その……」

「何? 何なの?」


(普段、自分の部屋にしか立ち寄らないから、何がどこにあるのか分からない。皆の部屋がどこにあるかも知らないし、未だにアーリヤ様の部屋すら知らない。嗚呼……)


 絶望的な気持ちで俯いていると、目の前から誰かが近付いてくる気配を感じた。顔を上げてみると、そこには――。


「巽と~んん!?」


 そこには、アーリヤ様と僕が出会ったその日に助けてくれた警察の人――アシュレイさんが何故かいた。僕がいたことは受け入れていたが、隣のクロエに気付くと目を見開いて硬直した。


「え!? なんで、ここにクロエがいるのさ!?」

「……そっくりそのまま返してあげようか、アシュレイ」


 クロエは、先ほどまでの穏やかな様子を一変させた。


「知り合い?」

「知り合いも知り合い超知り合い。簡単に言えば、私の上司みたいな? でも、おかしいな。アシュレイの役割は別にあったはずなんだけど」

「うん……そうだね」


 アシュレイさんは腕を組み、バツが悪そうな表情で俯いた。


「じゃあ、どうしてここにいるの?」


(上司? 上司にしては……いや、クロエは元々そういう奴か)


「――まぁ、もういいか」


 アシュレイさんが顔を上げた瞬間、空気ががらりと変わった。それには理由があった。何故なら、アシュレイさんの表情は文字通り狂気に歪んでいたからだ。


「は?」

「楽しい二重、いや三重生活だったよ……レディにも沢山囲まれて、まさに薔薇色。思い出は振り返ればキリがない、それを手放さなくてはならないのが惜しいよ。だけどねぇ……ハハッ、やっぱり心に決めた人が最初からいるからさ……お遊びはここでおしまいかなぁって」


 張り詰めた空気、一体何が起こっているのか僕には理解すら及ばない。ただ、とてつもなく深く濃い通常ならざる理由がそこに潜んでいる気がした。


「ふ~ん……あ~あ。フフフフフフフ……なるほどね、脆いなぁ家族って。脆いな組織って。ねぇ、どっちが先に処分されるか勝負しない?」

「ん……? それは、クロエも――」

「もう、それをあんたが知る権利はないんじゃない?」

「フフ……それもそうか」

「私が言いたいのは、序列的に高いあんたが裏切り者として処分されるのが先か、私が用済みとして処分されるのが先か……ってこと」


 クロエは緊張の糸を緩めるように、顔をほころばせる。


「なるほど。例外なく王は全てをお見通し……私がどれだけ足掻いても、無意味であると仮定した場合、私は間違いなく処分されるのだろうね。それまで、時をゆっくりと過ごすことにするよ。どっちが先になるかな、クロエの必要性はどこまで続くだろうね……? クロエの必要性と私の必要性、どちらが勝るのだろうね。楽しみだよ」


 アシュレイさんは狂気的な笑みを浮かべたまま、手を振りながら奥に吸い込まれるように消えていった。

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