魔術
―アーリヤの邸宅 昼―
どれくらい魔術を使い続けたか、あれだけのダメージを負わされていたと思えないくらい継続して使い続けることが出来た。自分でも驚くほどに。お陰で、元々の部屋より綺麗になった気がする。
「……はぁ」
だが、流石に疲れた。必要以上に魔力を使ってしまった。勢いやその場しのぎの行動ばかりやってしまうから、結果的に僕自身が不利益を被る。分かっているのに、その時にその場ではついやってしまう。
「すっかり綺麗になったわね。空気も新鮮な感じ。こんな魔術初めてみたわ。もしかして、巽君が作ったの?」
クロエは深呼吸をした後、興味ありげな様子で僕を見上げる。
「……こんな魔術を僕が作れる訳がないだろう」
魔術は、人によって作られる。作ると言葉で言うのは容易だが、実際にやるのと言うのでは訳が違う。作り方すら知らない。今まで作ろうと思ったこともなかった。作られたものを使うのは練習すれば出来るようになるので、そこまで難しくはない。
だが、作るというのはゼロからスタートしなければならない。自分で構成を考え、望む形に作り上げる。
普通に生きていれば、不満を持つことはあっても自分でどうにかしようなど思わない。特に、こんな形のないものを創造することなんて出来る気がしない。
「まぁ……確かにさっき巽君が使った魔術は難しそうではあるわね。武蔵国には、有名な魔術師でもいるの?」
「そんなものはいないよ。この国では魔術を作る人のことをそう呼ぶのか?」
「うん、宮廷魔術師になれればかなり優遇されるわ。城で暮らせるしね」
「城、か」
(じゃあ、もし小鳥がこの国にいたとしたら……生まれた場所が違ったら真っ当な評価を受けて、宮廷魔術師とやらになれていたかもしれないな)
彼女のそんな話を聞いて、脳裏にはかつての僕の専属使用人の小鳥のことがよぎった。子供なのに、その実力を見込まれて王であった僕の専属の使用人になった。その幼い少女に僕は何度も助けられた。その中で、僕はその魔術を見た。その魔術を何気なく彼女は披露した。
便利になるから自分で作ったと。そこで僕は思い知った。生まれた時から持っている者とそうでない者、その差は努力やきっかけで埋まるものではないと。
「うん。この国が魔術大国になったのは、それがあるからだよ。年齢や性別、身分だけでなく、実力で評価されるの。ま、人間しか当然なれないけど……」
「そうか……」
「どうしたの? そんなに悲しそうな顔をして」
「お前には関係ない」
真っ当な評価を受けることが出来る世界は、どこかにあるのだろうか。もしも、それを僕が作れていたのなら――。
「はいはい。それよりお腹が空いたから、何か食べよ。あ、前に言ってたクッキーでもいいよ! 作り方教えて貰ったんでしょ、どうせなら甘い物食べたいし」
クロエは面倒臭そうに話を変えて、ねだるような視線を向けた。
「……好き勝手言ってくれる。まぁいい、練習がてら作ってやる」
あまり気乗りしないが、またどう脅してくるか分からない。作ってやるだけで解決するなら、それで済ませよう。
「材料がいる、行くぞ」
僕は鎖を引っ張った。すると、彼女はふらっとバランスを崩した。
「ひゃっ! もう乱暴なんだからっ!」
不満そうな彼女を連れて、僕は部屋を出た。




