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恥ずかしさを流して

―アーリヤの邸宅 朝―

 クロエの全身を縛っていた鎖を解き、改めて鎖で両手を縛り、首にも鎖を巻き付けた。そのままだとある程度、自由になってしまうので、首部分の鎖を長く伸ばしリードのようにした。


「う~ん、ちょっと気持ち悪いけど……最初よりは全然マシね。は~お腹空いたし、喉渇いた」


 彼女は、ちらりと僕を見た。


(まさか、この僕にご飯を用意しろと言うのか……?)


「というかさ、この部屋掃除しないの? 私は、その……ちょっと食欲に関わってくるというか……そろそろ気が狂う一歩手前って言うか、うん」

「この僕に掃除と食事の提供を要求するというのか?」


 確かに、部屋中に血生臭さが充満している。しかも、所々血も付着している。ここで、事を起こした訳ではないのだが、窓もドアも締め切って密室である為に臭いが籠っている。

 僕が言うのもあれだが、よくまぁこんな所で平然と鎖に繋がっていられたなと思う。


「だって、この通り縛られてるから身動き出来ないもん。しかも、律義に魔力まで封じる鎖だし。な~んにも出来ないわ」

「隙を突かれるのは真っ平御免だからね」


 僕がそう言うと、彼女は俯きがちに儚げに小さく笑った。


「ハハハ……本当に信用ないのね。や、分かってるけどさ。ま、それでもいいんだけど。巽君が私から自由を奪ってるんだよ? 私が本来出来ることも一緒にね。だから、それくらいのことはやって貰わないと困るっていうか」

「……自分がどういう立場であるか分かって、そんなこと言ってるのか?」

「そっちこそ分かってる? いいの? 折角の素材をこんなことで駄目にしちゃってさ?」


 本来なら、彼女は自分の現状に嘆き絶望し、打ちひしがれているのが正解である。しかし、彼女は正解の真逆を突っ走っている。しかも、その嘆かわしい現状を利用して、さりげなく僕を脅してくる。


「くっ……」

「このままご飯が貰えなかったら、私衰弱しちゃうじゃない? 衰弱するってことは、本領が発揮出来ないってこと。自分でこういうこと言うのあれだけど、あんな姿にしてくれちゃってさ……これでも、私思春期真っ只中の乙女なんだよ? それくらいやってやらないと、割に合わない」


 彼女は顔を上げ、分かったかと言わんばかりの笑顔で僕を見つめた。

 さっきから、僕より幼い彼女に気付かせて貰ってばかりだ。そう思うと、無性に恥ずかしくなった。頭の中がグチャグチャになって、とりあえず誤魔化さなければならないと口が勝手に言葉を発し始めた。


「小娘の分際でなんて生意気な……ふん、別に気付かなかった訳じゃない。特別でも何でもない。そう、これは……僕の何気ない日常の為に行うことだ。間違えても、自分のことを考えてやったと思わないことだ。まず、お前の為にやってやる必要がないからな。お前なんかの為に――そうだ、ここで改めて立場を明確化しておく必要があるな。お前の先ほどまでの言動を考えると、あまり分かっていないようだ。いいか? 僕が上で、お前が遥か下――」

「うんうん、分かった分かった。もういいから。そんなに必死にならなくていいから。これ以上、傷口を自分で舐めない方がいいと思うわよ」


 彼女のその言葉に、ふと我に返った。瞬間、体から熱が生じるのを感じて――。


「……っ、黙れ! もういい! 今から掃除をするから、邪魔をするなよ!」


 僕は慌てて、今度は手を上にかざして魔術を使った。汚れを洗浄する魔術、それで自分の中に抱えている恥ずかしさを綺麗さっぱり流すようにして。

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