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彼女の意見

―コットニー地区 朝―

「――おーい」

「う゛う゛……ん?」


 呼びかける声で、目を覚ました。体を起こすと、僕はベットの上にいることを確認した。つまり、ここは僕の部屋。


「あれ……僕はいつの間に……」


 思い返そうとするも、いまいち記憶が蘇らない。学校に行き、ジェシー教授達と戦ったことは覚えている。そして、立ち上がれなくなるくらいまでには痛めつけられ敗北したことも。チャンスも掴めず、自身の実力のなさを実感したはずだ。

 死ぬことはないとはいえ、目を覚ますことがあるとすれば、ここではなく学校ではないだろうか。というか、あれだけ負わされた怪我も嘘みたいに治っているのだが。流石にあれほどの怪我を負わされて、自然治癒はないだろう。誰かが治療してくれたか、あるいは――何かを捕食したか。


「ちょっと前に瞬間移動してきて、酔っ払いみたいにベットの上に倒れてたじゃない。ず~っと呼んでんのに、無反応だから死んでんじゃないかと思ったわよ」

「ん……?」


 先ほどから何やらうるさい。声のする方に視線を向けると、そこには鎖に縛られたクロエがいた。


「あっ」

「あっ、って何? 忘れてたみたいな表情してるけど、こんな酷い目に遭わせておきながら忘れるとかある?」


(忘れてた。つい、色々起こり過ぎてて……)


 僕としたことが、何たる失態だ。最初からこれを持っていけば、あのチャンスだって掴めたかもしれない。戦に刀を忘れた馬鹿な侍みたいなものだ。……例えとして出してみたものの、そんな侍いるのだろうか。


「はぁ……」


 今日はもう色々駄目かもしれない。ボロボロに負けてしまったし、そこからどうやってここまで戻ってきたのかということも覚えていないし。


(たまにあるんだよな、こういうこと。どれだけ僕はぼんやりと行動しているんだろう。こんなんじゃ駄目なんだよ。もっとしっかりとしないとな。アーリヤ様に恩返しをする為にも)


「ね、何か思い悩んでいる所、大変申し訳ないんだけど、そろそろ私を自由にしてくれないかな。ずっとこの体勢だとマジでキツイんだけど」

「それは無理」

「……そう言うと思った」


 僕はベットから降り、鎖に繋がれた彼女に歩み寄る。


「君は僕にとって、重要な存在なんだよ。一番最初の試作品、まずはどこまで出来るのかもっと試してみたいんだよ」


 そして、彼女の顎を持ち上げ微笑みかける。


「別にいいよ。それでも。物扱いなんて慣れてるし」


 予想外の返答に、僕は困惑した。


「何だと……?」

「私は巽君の傍から逃げも隠れもしない。この鎖があろうとなかろうと、私は巽君の傍にいる。私を信用出来ないのも分かる。それなら、私に首輪でも足かせでも手錠でも何でもつけたらいいわ。私を拘束することで、巽君の気が休まるなら。でも、とりあえずこの四肢をまとめて拘束するのは勘弁して欲しいの。体も痛いし、何よりまともに休養出来ない。疲れが取れないの。これって、巽君にとっても不都合じゃないかな?」


 クロエは、真っ直ぐな瞳で僕を見つめる。


(確かに……体力がまともに回復していない状態だと、次の実験にも影響が出る……か)


 彼女の意見には筋が通っていた。しかし、その提案を彼女自身がしてくるとは驚いた。彼女の提案がなければ、その事実に気付かなかった僕にも問題はあるが――とりあえずは一応、その形で行ってみることとしよう。

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