終焉のパーティ
―ボス 学校 朝―
騒がしい朝だった。車椅子に座って窓越しにその喧騒を感じ取っていた。彼を信用してここで見届けていたものの、少々心配ではある。理事長という現在の役柄上、体を好き勝手を動かすことが出来ないのがもどかしかった。
ほとんどは、推測通りのことが起こっているだろうからつまらないかもしれない。だが、そこには異分子巽君がいる。もしかしたら、自分の推測とは違うことがあったかもしれないと期待してしまう自分もいた。真実は彼に聞けば分かる。来てくれたようだし。
「つーちゃんが生えてきた」
地面が歪み、そこから人の頭が出てきた。こんな芸当をやってのけるのは、つーちゃん――綴しかいない。
「やっぱり分かっていたか。う゛う゛……昔からこういうことばかり得意なんだ……何の役にも立たない」
そして、あっという間に宝生 巽がそこに立っている姿になった。しかし、今の彼は巽君じゃない。今の彼は巽君の中にいる人物、十六夜 綴である。
地面から生えてくるのは、彼のお気に入りの現れ方だ。瞬間移動をわざわざ工夫して、こんな風に現れて不敵に微笑むのが常。ただ、いつもの気丈なつーちゃんの姿とは違っていた。
「やけに辛そうだね。まぁ、無理もないか。でも、巽君をそういう体にしたのはつーちゃんだよ」
巽君の体には、見て分かるくらいに異変が生じていた。彼が苦しそうに胸に置く手は、鋭い爪が伸びている。
「まさか、この私が飲まれそうになるとは……あの女のせいでより強大になっているらしい。グッウ……」
「へぇ、まぁそうだろうさ。巽君の中にいるアレは珍しく知性と自我を持ってる。それでいて、体を独占しようとはしない特殊な個体。その個体の制御を奪ってる状態な訳さ。長い時で形成されてきた力……それがマックス解放されている状態に、今つーちゃんがした訳なのさ」
「……無理矢理した状態だ、長時間は持たないだろう。現に、力が弱まってきている。ここが峠だ。ここさえ……乗り越えれば」
流石は、特殊な個体を作り上げた男だ。もしも、巽君だったら今頃化け物になって大暴れしている所だろう。かなり辛そうだが、つーちゃんとこう話すことが出来る時間は限られているので話は続けなくてはならない。何かイレギュラーなことは起こったのか、聞かなくてはならないのだから。
「つーちゃんならどうにかなる。で、本題に入るけどさ。まさか、彼らを殺してないよね?」
「ハァ、当たり前だ。あのジェシーとかいう半端者はどうでもいいが、お前にとっては重要なんだろう」
「良かった~……」
「表情と発言が矛盾しているぞ。私はちゃんとやったんだ、その反応は意欲を下げる」
残念でならない、心の奥底から自分は期待していたのに。自分にとって必要なピースが欠けてしまうことを。
「ごめんごめん。ま、それならそれで計画通りだからいいや。そういえば、選抜者の中でいい感じの子はいた?」
「いや……あのジョンという奴には期待していたのだが、少々魔力不足だな」
「メアリーちゃんは?」
「女は論外だと言っただろう。どんなに頑張っても、元々の性別を乗り越えられる気はしない……」
「う~ん、そうか。ま、他にもいるからさ。巽君の中からよく見て考えなよ」
自分が作ったタレンタム系列で行われているタレンタム・フェスティバル。それに出場出来る学生は、実力を持った選ばれた者達。毎年かなり盛り上がってる。楽しい行事であると、皆思っている。それが元々何の為に始まったのかを知りもせず。
「接触する機会があまりなくてな……こう私が巽の体を借りるのも、それなりに疲れる。接触出来るように、導いてはくれないか」
「うん、そこは問題ないかな。やってあげるさ。それにしても、ようやく選抜者達が本来の役割を担える時が来るのか」
選抜者の本来の役割――それは、器だ。
この学校を創設して少ししてから、ジェシーが要求してきたのだ。いずれ、この肉体は老いて使い物にならない時が来るだろうと。だから、魔力が優れている人材を適当に集めて、その時が来たらその人間の肉体に移ると。
それなのに、ジェシーは変わってしまった。自分から言い出したことなのに、いつの間にか選抜者に愛を持つようになっていた。挙句の果てに、拒否までして。
『俺はあいつらの教師だ。確かに全盛期と比べれば老いた……だが、まだこの体は使える。まだ、その時じゃない』
あらゆる分野の学校を創設し、必要のない所まで選抜者を出し、それに意味が生まれるように祭りを開催してやっているというのに。自分の苦労も水の泡になってしまうのかと嘆いていたが、つーちゃんのお陰で
意味を成しそうだ。
「巽に比べればかなり見劣りするが……贅沢は言うまい。私は、巽を翻弄して、巽自身に崩壊という選択をさせたいんだ。あの男の目の前で……ッ」
「フフ、期待してるよ」
すっかり、つーちゃんも元気になったようだ。つーちゃんも、自分にとっては大事な大事な駒。決して、失いたくはない。どれだけ裏切られても、どれだけ踏み躙られても。
(さあ、終焉のパーティを始めよう……なんてね)
そう、心の中で呟いた。




