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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第十九章 幼馴染
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繰り返される醜きものこそ

―ジェシー 学校 早朝―

 メアリーの無事を確認して、再び奴に視線を向けた時には――もうそこにはいなかった。


(逃げられたか。あいつの気配をほとんど感じなかった。この俺が……な。大したもんだな。タミの中にいる何者かは……随分と戦い慣れているらしい)


 俺の完敗だった。まるで、最初からあいつの描いた絵の通りであったかのように感じられてかなり腹が立つ。名前も顔も声も分からない何者かに、完璧にはめられた挙句に舐められた。

 もしも、あいつがあそこで俺と戦っていたら――勝ち目はなかった。メアリーの命だって危なかった。不幸にも、他の仲間達はこの時間であることもあって、ここにはいなかった。

 ありとあらゆる俺の手段を完全に潰した上で、奴はここで俺を生かした。まだ、俺に価値があると判断したからだろう。


(奴が逃げたんじゃない、俺が逃がして貰ったんだ。くそっ!)


 あいつは言った。俺は甘く、生温く、中途半端であると。その言葉は間違いではない。俺も自覚している。いつから、俺はこんなに生温くなったのだろうと。

 俺の力の源である平和は、皮肉なことに綺麗事では成し得ない。俺の力の源は遥か昔から、犠牲と後悔という人々の感情から出来た安寧を求める心から出来てきた。


(俺は弱くなったのか……いや、そんなはずはない。少なくとも、この体になってからのことを考えると明らかに強くなったはずだ。力を取り戻しつつあるんだ)


 繰り返される醜い争い。それが終われば、人々は皆反省する。その争いが大きければ大きいほど、得られる平和は大きくなる。それでも、人は繰り返す。争いを、戦争という名を借りた殺人を。

 しかし、一時そのループが途切れたことがある。それが、アーリヤの存在だ。唐突に現れたそれは、均衡を破った。二度と平和が訪れないように、俺を弱らせてまで。

 幸い、俺そのものが消えるという最悪の事態は回避出来た。そのお陰で均衡もある程度保たれ、再びループに入ろうとしている。


(後はアーリヤさえ抹殺出来れば……この不安定な状況も終わる。アーリヤの尻尾は掴めた。後は所在を掴むだけ。封印を解かれ、どこに隠れているのか……しかし、奴も奴とて力を持っている。こちらもそれなりに戦力を固めていかなければ、全てが無意味になる。俺がこの永い時の中で、得たものも失う……駄目だ。それだけは)


 俺の理想を打ち砕こうとしている奴らを、俺は消さなくてはならない。それは、おおよそ自分の為に。後少しは、この世界とこの世界に生きる者達の為に。


(こんなことに、お前達も巻き込んでしまった。でも、数がどうしても必要なんだ。大丈夫、今度こそ……お前達を守るから)


 俺は心の中で密かに誓った。俺は、最低だと思う。だけど、それが俺の使命だから。やらねばならないことだから。


(こんな俺を信じてくれて……師だと慕ってくれて、ありがとう)


 そして、俺はメアリーを抱きかかえながら、地面に倒れるジョンの所へと向かった。

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