司龍
―ジェシー 学校 早朝―
そして、信じられないことに、タミの気配が移動していることに気が付いた。
「まさか……っ!?」
爆発の余韻が消えた後、恐る恐る気配を感じる方に視線を向けた。
「――ハハハハハハ! アッハッハッハ!」
そこには、気絶するメアリーを鎖で吊るしながら高笑いをするタミがいた。また血の跡こそ残っているものの、俺が与えた傷は残っていなかった。ぽっかりと空けたはずの穴も、綺麗に消えていた。さっきまで、血の気のない顔で虫の息だったというのに。
(おいおい……なんで死んでねぇんだよ)
異常な体の持ち主であることを考慮し、致命傷を与えたはず。今までの経験から考えて、あそこでこいつは息絶えているのが通常だ。異常の中でも異常――常識の遥か外、そんな相手がアーリヤの手に堕ちてしまったのか。
(かなり厄介だな。しかも、メアリーが人質にされちまってる。くそ、あの一瞬で……油断し過ぎたってことか)
確実に死の場面を見届けるべきだった。生半可なことをすべきではなかった。苦しみなら死なせるのも生温かった。何も感じさせず、何も考えさせず、この手で抹殺すべきだったのだ。
「何も面白くねぇだろ? なぁ……タミ。てめぇ、何者だよ。その生命力、禁忌の技術のそれとは思えねぇんだが」
(それに……なんだ? この違和感。こいつ、雰囲気変わってないか?)
タミの顔を見ても、まるで違う人物の姿を見ているかのようだった。
「面白いよ? だって、本当に予想外だったんだなって分かったから。ま、これでおあいこだよね。それで、本当に太平を司ってる訳?」
「……何?」
「フフフ」
タミは不敵な笑みを浮かべて、メアリーの首元を撫でる。随分と余裕の様子だ。形勢逆転されてしまったようだ。現に、メアリーが実質の人質である状況では不用意な行動は出来ない。
「そんなんだから、人間にいいようにされてしまうんだよ? 甘くて温くて、中途半端。それが、人との馴れ合いを覚えてしまった司龍の成れの果てか」
「お前……さては、タミじゃねぇな?」
「えぇ? なんのこと? どっからどう見ても、僕じゃないか……」
俺がそう問うと、タミの皮を被った何者かは白々しく言った。今更、そんなことを言ってももう遅い。俺の真実を知っているのは、この世界では限られた者だけなのだから。無論、その中にタミは含まれていない。アーリヤだってそうだ。
「いや、俺には分かる。お前は、タミじゃねぇ。あいつよりずっと凶悪な……泥にまみれた人間の臭いがする」
「はぁ……まぁ、別に隠すつもりなんてなかったからな。そうだ、私はタミ……ではない」
「じゃあ、誰だよ」
「教える訳がないだろう? だが、一つヒントをくれてやろう。私はお前を知っているが、お前は私を知らない。私がお前を知ったのは、悪戯好きの神と出会ったからだよ。さて、ある程度は話せたし……これでいいか。また、会えるといいな」
奴はそう言って、メアリーを投げ捨てた。俺は咄嗟に体を動かして、メアリーを抱きかかえた。




