隙だらけ
―学校 早朝―
無の空間から降り立ち、学校を見渡す。早朝ということもあって、学校は不気味なくらいに静まり返っていた。
(――流石に早く来過ぎたか)
午前四時過ぎ、始業時間より数時間早く来てしまった。あの母親が不在だったせいだ。あんな場所に長くは滞在したくはなかったから、学校に行くことを選択した。
(こんな時間だし、流石に学生は……ん?)
と、思ったのだが……校舎の前に白いコートを羽織った見覚えのある女性がいた。僕が気付いた時、彼女もこちらに気付いた。
「あ、あ……貴方は!?」
「あ~……確か選抜者の中にいた方ですよね?」
(後ろの方で怯えてた奴か……それと、守りだけでクロエを圧倒した奴。確か、名はメアリー)
彼女に、あんまり特別な印象がない。というか、そもそもあの選抜者全体に大した印象がない。思ったほどの実力もなければ、特別に目立った顔立ちの者はほぼいない。顔にピアスをつけている奴はいたが、それがなければただの一般人と変わりない。
選抜者達には、見た目の華がないのだろうと思う。中身は他者より、それなりに優れていたとしても……やはり見た目から醸し出される貫録というのは大事だ。
「何の……何の御用が?」
酷く震える手で、彼女は白いコートにつけられた紋章バッチを握り締める。
(そういえば、一応僕も選抜者なのにコート貰ってないなぁ。まぁ、ほとんど行ってないから仕方ないか)
「何の御用? 酷いですね、僕もここの学生なんですよ。ここにいることは普通ですよ。それとも、あれですか? 僕はここにいるべきではない、みたいな感じですか?」
彼女の目は、同胞を見る目ではない。排除すべき敵を見るかのような目だ。前の時にそう判断されてしまったのか、それとも今日この瞬間までの間で僕に関する何かを知ってしまったのか……もし、後者だとしたら僕はヘマをやらかしたということだ。
「その通りですっ!」
強いハッキリとした口調で、彼女は言った。声はかなり震えていたが、そこからは強い思いを感じた。
(ん……?)
その時であった。背後に人の気配を感じたのは。息を潜めているが、隠し切れていない殺意と匂いで察してしまった。この匂いも、あの選抜者の中で嗅いだことがある。
(ちょうどいい戯れだ)
「どういう根拠があって?」
僕は、震える彼女に迫る。
「ひっ……」
彼女は後退りしようとしたが、足がもつれてその場にへたり込んだ。
「ふっ、なんて弱々しい先輩だ」
僕はへたり込む彼女の前でしゃがみ込み、顔を近付けた。
「え……!?」
「流石の僕でも気付きますよ。先輩達の微妙な関係性は。青春って奴ですけど、それは隙でもあるんです。だから、こうなっちゃうんです――」
そして、僕は彼女の顎を優しく上げて口付けを交わした。




