この世界を永遠に
―アレン マフィアの拠点 早朝―
俺の手の中でスヤスヤと寝息を立てて眠る、小さな小さな命。マフィアが連れて来た時は、泣いて大変だったがようやく落ち着いた。
「可愛いねぇ。いくらカラスでも、俺の中にある母性? って言うのがくすぐられるよ。ねぇ、ロイもそう思うだろ?」
「は、はい……」
俺の足元で、いつもの如く足拭きマットになっている怪我だらけのロイ。踏み心地は最高だ。先祖代々、この俺に踏まれ続けているだけはある。ちょっと力を入れるだけで苦悶の表情を浮かべてくれる。
「この世に生まれるということは、神様から選ばれた子である証だと――かつて、母が言った。だけどね、それは違うんだよ。生まれること自体は平等だ。そこから先が違うだけ。生きていく中で初めて決まるんだよ。選ばれたか、そうでないかということは……ね。例えば、俺とロイみたいな?」
この世界において選ばれるということは、王族やマフィアのボス、金持ちの家系に生まれるということではない。それはただの当たり前に用意されてあった環境でしかない。そのことを選ばれたのだと錯覚するのは、小さな世界で玉座にふんぞり返るか何も見えていない、哀れな生き物であることの証明だ。
俺も、かつては哀れな生き物だった。自身の境遇に嘆き、選ばれなかった環境に生まれたことを恨んでいた。その過ちに気が付いたのは――創造主に出会った時だった。
「は、はぁ……」
「別に分からなくてもいいよ。俺が一方的に話したいだけなんだから」
その出会いは、全てを変えた。俺にこの世界の真実を見せてくれた。俺の全てだと思っていた世界は、あまりに小さ過ぎた。だからこそ、滑稽であると思えた。生まれたその瞬間から与えられた身分に、一々縛られて生きるのは。
だから、創造主から与えられた権限で試しにここを滅茶苦茶にしてみた。ずっと昔にやったことだが、今もなお深い傷として残り続けている。
「そうですか……」
「一々適当な相槌打つなよ。下手くそなんだから、黙って聞いてろ」
「ぐはっ!?」
いい加減、こいつは俺の扱い方も理解すべきだろう。物心つく前から一緒にいるのに――何故、分からないのだ。恋心に気付いて貰えない乙女のような気分だ。だから、むかつく。理解して貰えない、いつもいつも湧き起こる殺人衝動を踏みつけることでどうにか抑えているが……そろそろ限界かもしれない。
こいつらの血筋なんだろう。誰かを理解しようとしないのも、出来ないのも。ちなみに俺はするけど、それ以上のことはしない。俺の為にそれが必要でないのなら。
「ロイのすがるちっぽけな世界でも、こんなくだらない滑稽な世界でも、失敗作でも試作品でも俺の生まれ故郷なんだよ。俺の愛する形で永遠に残しておきたいんだよ。俺的にこの世界の奴が好き勝手するのはいいけど、他の世界の奴が好き勝手するのは許せねぇんだよ。だから、全員……抹殺しないとね」
この世界の支配者は――この俺だ。他の創造主に選ばれた他の世界の奴らに、俺の愛するこの世界を壊させはしない。




