この恨み
―アレン コットニー地区 夕方―
(どこにいるんだろうかなぁ、俺の元・足ふきマット君は)
とりあえず、マフィアの拠点である場所に行ってみたのだが、ロイの姿は見当たらなかった。もしかしたら、かくれんぼをしているのかもしれないとトイレの便器の中やキッチンの棚の中などもくまなく探してみた。けれど、どこにもいなかった。
部屋は至る所がボロボロになっていて、荒らされていた。窓やら壺が粉々になっていて、危うく怪我をしてしまう所だった。多分、ロイが暴れたのだと思う。ストレスのぶつける先が、カラスや部下程度では足りなかったが故に。
(やれやれ……こっちは地道に足で探さないといけないんだから勘弁して欲しいよねぇ)
天を仰ぐと、オレンジ色の空が黒に染まろうとしていた。その色にまじって、黒き翼を持つ者が空を翔けている。基本的にこんな景色が見られるのは、ここくらいのものだ。堂々とカラス達が空を飛べるのは。これが当たり前の光景だ。
(いいなぁ。俺にも翼があれば楽なのになぁ。あ~あんな風になれたらなぁ。でも、黒は嫌だなぁ。折角ならもっと豪華な翼がいいかな~)
それなりの距離をうろちょろ歩いたので、足が痛い。だからだろうか、余計にそんな妄想がはかどってくる。
「ばぁん」
しかし、そのカラスがあまりに堂々と空を飛んでいるものだから、何だかむしゃくしゃしてきてしまった。なので、右手を拳銃の形にちしてそれに向かって撃ってみた。
すると、そのカラスは俺の手から出た弾丸が翼に当たり、バランスを崩してどこかに墜落していった。
(八つ当たりしちゃった、テヘペロ。ま、いいか)
多分、死んではないだろう。その代わり、もう二度と空を飛べないかもしれない。ここに医療機関もなければ、怪我したカラスを治してくれるような人達も存在しない。
(あ~マジでどこにいるんだろう。イライラするなぁ、どうしてこの俺があんなゴミの為に必死に探さないといけないんだろうなぁ。アーリヤ様に聞けば良かったなぁ。あ~でも、もう寝てるかもしれないしなぁ)
このイライラは、ロイを見つけたらちゃんと本人にぶつけなくてはならない。足ふきマットくらいでは満たされない、どうするかはその場のノリで決定しよう。
「ロイ……どこ!?」
俺は思いっ切り叫んでみた。さっきから至る所でこれをやっているのだが、今の所効果なしだ。それに気付いたマフィアの下っ端連中が慌てて捜索を手伝ってくれてはいるけど、マジで見つからない。
疲れ果てた俺は、石垣の上に座り込んで叫ぶ。
「足痛い……ねぇ、誰か!」
すると、一人の図体のいい男性が駆け寄って、俺の足をマッサージし始めた。
「す、すみません。すぐにボス見つけますから……!」
「はぁ……うん。見つけてね。もう俺疲れたから。どうせ君達暇なんだしさ、あ~もっと強く強く揉んで! そうそう!」
「は、はい!」
きっと、明日か明後日は筋肉痛だ。この恨みは、ロイを見つけたらきっちりと晴らすことにしよう。




