嘲笑う夕日
―コットニー地区 夕方―
真っ赤な夕日が、僕を嘲笑いながら沈んでいくように見えた。
情けない、こんな自分が嫌だ。何も考えずにいられたら、ドールの言うように出来たのなら……苦しい思いをせずに済んだのかもしれないのに。
「――どうしたんですの? そんな所で座っていては、折角の服が汚れてしまいますわ」
座り込む僕の背後から、優しい声が聞こえた。
「ドール……?」
「大丈夫ですわ」
そして、彼女はふんわりと僕を抱き締め、耳元で囁く。
「あの親子のことが気になるのでしょう?」
「っ!? 何故分かる?」
「アーリヤ様にはお見通しですもの。貴方の感情も考えていることも、全て」
「そう……か」
僕のくだらなさも情けなさも、何もかも見透かされている。このままでは、いずれアーリヤ様にですら見放されてしまうのではないか。僕が不甲斐ないばかりに。
「そんなに辛い思いをするのなら、何も考えなければ良いのですわ」
「簡単に言ってくれるね。生きている限り、心がある限り……考えることをやめることは出来ないんだ。考えることを簡単にやめられるのなら、僕はやめたい! 邪魔で邪魔で仕方がない、でも僕には出来ない!」
「……そうですのね」
彼女は、あまり納得し切れていないような声色だった。彼女の基準と大半の基準は圧倒的に異なる。元々、感情を持たない存在であると言われていた。つまり、彼女は名前の通り人形。だから、簡単にそんなことを言ってのける。
今の彼女が感情を持っているのは、恐らくアーリヤ様の力の加護があるからこそだろう。だから、こんな風に温もりだって感じる。僕と同じように、彼女も何かしらの欲望を持っていた。それが、本来感情を持たぬ彼女自身のものであったかは不明だが。
「なら、そのモヤモヤとした感情を解決するしかないですわ」
「解決?」
「えぇ、あの親子をキングが助ければいいのです。ただ、それだけの単純なことですわ」
「でも、そんなことをしたら……」
きっと、アーリヤ様は失望する。本来ゴミ以下の存在であるカラスを手助けするなど、許されざる行為なのではないかと僕は思ったから。
「アーリヤ様は貴方がカラス達のせいで苦しんでいることで、心を痛めていらっしゃいますわ。これは、アーリヤ様からの命令ですわ。その親子を助けよ……と」
「え!?」
「アーリヤ様はキングのことを心配しているのです。ね……? だから、そんなに思い悩むことなんてないのです。キングはキングの為に……それがアーリヤ様の為にも繋がってくるのですわ」
ドールはそう言って、僕の髪を優しく撫でた。
「あぁ……うん……」




