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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第十八章 惟う者
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調子が狂う

―コットニー地区 夕方―

 血の雨が落ち着いた頃には、マフィアは倒れて動かなくなっていた。さっきまで、あんなに叫んでいたというのに。


「おんぎゃー! おんぎゃー!」


 しかし、赤子はまだ大声で泣いていた。先ほどよりも、さらに酷くなった気がする。


(……思った以上に血が飛んでしまったせいで、あの子や母親の所にもついてしまったか。それが、この赤子には気になってしまうのか?)


 赤子をよく見てみると、所々マフィアの血が付着していた。それが分かっているのかいないのか、ただ単にマフィアの絶叫に驚いてしまったのか……とりあえず、大号泣だった。

 さらに、泣き喚いている赤子の体はかなり痩せ細っていた。僕の記憶の中にある、赤子の体格とは異なっていた。よく見れば見るほど、健康状態の悪さが伺えた。


「す、すみません! すぐに泣きやませますから、どうかお命だけは……!」


 僕がじっと見ていたのが余程恐ろしかったのか、母親は命乞いを始めた。


(別にそんなつもりでは……いや、そう思われても無理ないか)


 血の雨を降らせてしまったせいだろう、彼女の目は人殺しを見るそれだった。


「別に、お前達の命を奪って回るほどの暇は持て余していない。ただ、お前の目の前で寝転がるゴミがあまりに鬱陶しかった。それだけのことだ」


 僕は、手に残っていたマフィアの腕の欠片を投げ捨て彼女らに迫った。


「ひっ……」


 害を加えるつもりは殊更ないのに、彼女はさらに強く赤子を抱き締めた。よっぽど、僕を信用出来ないらしい。


「やめて……! この子だけは……」


 僕が赤子に手を伸ばした時、彼女は拒絶する素振りを見せた。


(別にいいけど……ここまで素直にされると、少し複雑な気持ちになるな。行動で示すしかないか)


「汚れている」


 血液が付着している部分に手をかざすと、粒子状になってそれは空気中に溶けるように消えた。


「え……?」


 僕が、何か良からぬことをすると思い込んでいた母親は目を丸くした。さっき言ったことは聞こえていなかったのだろうか。


「言ったはずだ。お前達の命を奪って回るほどの暇はないと。さっきのは、あまりに不快だったから消しただけだと。それより、このお前の子供は随分と痩せているな」

 

 彼女は、少し困惑した表情を浮かべたまま口を開く。


「栄養のある食事を私が取ることが出来ないので、母乳が中々出なくて……それで、この子もお腹が空いているみたいで。最近は疲れ果てるまで泣き続けて、そのせいで彼らに目をつけられてしまって……その、た、助けて下さったのにすみません。動揺してしまって……えっと……」


(お腹が空いているから泣いているのか。ずっと満たされない思いを抱えながら……何も分からないから泣いて訴えている。なんて可哀想なんだ……って、どうしてこんなことばかり考えてしまうんだ!)


 この親子に会ってから、どこか調子がいつにも増して狂う。一刻も早くここから立ち去らないと、気分が持たない。


「っ! 別にいい、どうでもな。どうでも……」


 泣き喚く赤子の声を聞きながら僕は背を向けて、逃げるように去った。

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