守る
―アリア 学校 昼―
吼えた後、ジェシー教授は説明を始めた。
「学校内で事件が起きたこと……それは、お前達もある程度は知っているな?」
彼は、白いコートを着た選抜者に問いかける。
「誘拐事件と、得体の知れぬ化け物が暴れた事件ですよね。直接見た訳ではありませんが、噂で大体のことは聞いています。それが、どこまで真実かは分かりませんが……」
その選抜者の中で中央にいた男性が、それに応える。リーダー格の雰囲気をかもし出している、中央にいるからそう見えているだけなのだろうか。
「学校側も詳細な説明をすることをしなかったからな」
「まさか……隠蔽しようとしてたとかじゃないよね?」
怪訝そうな表情で、顔中にピアスをつけた男性が言った。
「それは違う」
すると、それを車椅子に座り顔を隠した理事長が即座に否定した。そういえば、理事長を見たのは初めてな気がする。
「ただの事件じゃない。ずっと強大で凶悪な力が潜んでいる。下手に言えば、好奇心が旺盛で正義感の強い学生達を刺激してしまう。私には、彼らを守る使命がある。理由があって言わなかった。それだけのことだ」
その声は、小さく怒りに震えていた。
「そういう訳だ。だが、学校側としても何もしないということは出来ない。その凶悪の種は、既に学校に根を張り始めた。だが、悲しいかな。多くの教師は、まるで使い物にならない。実技的なことに長けている奴は、この俺しかいないという事実がそこにある」
しかし、そう語る彼の目はちっとも残念そうなものじゃなかった。
(そういえば、実践的なことを教えてくれる教科はジェシー教授しかいなかったような気がする。座学は色んな教授がいるけど……)
しばらく学校生活から離れていたものだから、記憶が薄れているが多分そうだったと思う。その時は気にしたことはなかったが、今思うとジェシー教授の負担はかなり重い。学生達全員分の実技的指導を、彼が行っているのだろうから。
「そ~んな、俺が手塩にかけて育てているなうのお前達なら、圧倒的にその教授達よりも勝る。だから、お前達もここに呼んだ。加えて、王の使者まで手伝ってくれるってよ。これだけいりゃあ、百人力だろ?」
「それって拒否権は私達にはないってこと? ジェシー」
表情一つ変えない落ち着いた女性が言った。すると、笑顔を浮かべていた彼の表情が一変して真面目なものになった。
「お前達を危険に巻き込んでしまうことは分かっている。これが、俺の使命に反していることも。それでも、俺は絶対にやらねぇとならねぇ。だから、決して俺の傍から離れないでいてくれ。共に戦って欲しい。決して、勝手な動きをするな。危なかったら逃げろ。万が一の時は、絶対にお前達は俺が守ってみせる、いや守る」
彼の目には、強い決意の炎が灯っていた。




