音色が信じるなら
―アリア 街 昼―
ペンダントから鳴るオルゴールの音に導かれるようにして、私は街を走っていた。なるべく人目を避けながら。
そして、その音はとある場所でとまった。
「……待っていた。アリア=アトウッド」
「綺麗な瞳ですね、この手に取って眺めてみたいくらいですよ」
そこには、二人の人物がいた。一人は黒髪の褐色の男性、もう一人はガスマスクで完全に顔を覆い隠した人。声色と体格的には、多分男性だろう。ただ、どちらの人も私は知らない。
しかし、彼らは私の名前を知っていた。知り合いでもないのに、私の名前と顔を知っている人物など限られてくる。
(まさか……警察!? バ、バレてた!? なるべく人目につかないように移動してたはずなのに! 街中にある手配書も全部こっそり捨ててたのが、誰かに見られてた!?)
見た感じは、私の中にある警察のイメージとは程遠い。もしかしたら、違うかもしれない。そんな思いもあったが、一度感じた不安からはそう簡単には抜け出せなかった。
「だ、だ、だ、だ……誰ですか!?」
無駄に動揺してはいけない、そう思っていたのに体は言うことを聞いてはくれなかった。声が震えて、体も冷や汗をかいてとまらない。
「そんなに震えることはない。別に、俺らはお前に罰を与えようとしている訳ではないのだから」
ガスマスクをつけた人が、私に迫る。表情が分からないから、恐怖という感情が芽生えてしまう。
怖い、逃げたい、でも体は動かない。いや、下手に動いてはいけない。でも、どうすればいいのかちっとも分からない。
「じゃ、じゃあ……貴方達は何者なんですか!?」
私は優しい音色を発するペンダントを握り締めて、何とか気持ちを落ち着かせながら言葉を発する。もしも、この人達が警察だったとしたら急いで逃げなくてはならない。石のように重いこの体を引きずってでも。
「俺達は……お前の探し人の行方を知っている者だ」
「そう、つまり協力者ですよ」
「協力者……?」
「立場としては、同じ追われる者同士。仲良くしよう」
ガスマスクの人がそう堂々と言った時、黒い羽が舞った。
「え……カ、カラス?」
二人の背中には、立派な黒い翼があった。それは、この国において異端者及び敵としての証だった。
「えぇ、見ての通りです。私達はカラスです」
褐色の男性は、ペンダントを握り締めても尚震える私の手に触れた。彼の手は、とても温かかった。久々に感じた人の温もり、自然と私の体の震えが小さくなっていった。
そして、もう一つ変化が起こる。
「オルゴールの音が……」
彼の手が触れた瞬間、オルゴールの音がとまった。それから分かることは、私を導くのはここまでであるということ。彼らの言うことを信じるのが正解だということ。
「ここから先……お前を導くのは俺達だ。共に来い。そうすれば、見つかるだろう……お前の大切な友人タミを」
私は絶対に、このペンダントを彼に返す。そして、アーリヤの手から引き離してもう一度一緒に授業を受けたい。
「この音色が貴方達を信じるというのなら、私も貴方達を信じましょう。教えて下さい、彼の居場所を!」




