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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第十七章 共同戦線
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番外編 IFクリスマスの準備

番外編です。

本編とは関係ないです。

時系列とかも気にせず、独立したお話です。

―街 夕方―

 僕は、アレンさんと共に街に来ていた。


「いや~ついて来てくれてありがとう。アーリヤ様が、どうしても七面鳥をクリスマス前に食べたいっておっしゃるもんだから。で、そのついでに色々準備しとこうと思ったら、結構荷物増えちゃうどうしようってなってた所に、君が現れてくれたんだよね」

「……別にいいんですけど、これ多過ぎません?」


 街に来て、恐らく数時間は経過した。僕の手には前が見えなくなるくらいの箱が積み上げられ、両腕には紙袋がかけられている。ちなみに、アレンさんの手には何もない。バランスが悪過ぎやしないだろうか。ほとんど見えないが、それは彼の声色から何となく分かる。


(魔法で納めとくのもありなんだけど……もし、それで味をしめられたら困る。この量を帰るまで魔力でどうにかしておくのは、体が持たない。目に見える形にしとかないと、この人もっと買いそうだ)


「だって、クリスマスだもん。プレゼントがいるでしょ。ご馳走だっているし。飾り付けも、前と同じじゃ嫌だしね。アーリヤ様も皆も、もう何百回目のクリスマス? って感じだし。まぁ、最近まで封印されてたから多少は許して貰えるかなぁ」


(さっきから、クリスマスクリスマスって何なんだろう?)


 街の至る所に『クリスマスセール!』とか書いてある。しかも、何やら眩しい。今はほとんど見えないが、その眩しさだけは伝わってくる。


「あの~クリスマスって何ですか? ずっと疑問だったんですが。街も何かいつもと違う感じがして……人間達も浮ついてて、それって特別なことなんですか?」


 横目で辛うじて見えるアレンさんに、僕はそう問うた。


「知らないの!? 本気で!?」

「知らないです。僕があまりイベント事に興味がないっていうのもあるかもしれないんですけど……僕の国では、そんな行事はなかったように思うんです」 


 僕の国で冬頃にあった行事といえば、お正月くらいのもの。おせち料理を食べ、着物を着て羽根つきをしたことがある。楽しかったという思い出は、それくらいのもの。後は神社に皆でお参りに行ったり、国民に新年の挨拶をしたり、日ごろお世話になっている人に年賀状を書いたり……とにかく忙しい。


「えぇ……もったいないなぁ。ほら、景色を見てご覧……あ、いや見えないか。でも、来た時には見ただろ? 街がライトアップされているのを」

「見ましたけど、それがクリスマスなんですか?」

「イルミネーションって言うんだよ。でも、これだけじゃない。クリスマスカードっていうのを交換したり、プレゼントを交換したりもする。それで、ご馳走もたんまり食べる」

「クリスマスカードの交換? 年賀状みたいなもんですか?」

「年賀状? 似てるのかい? よく分かんないけど、まぁ君がそう思うのならそうなんだろうね。でも、クリスマスの素晴らしい所はそれだけじゃない」


 彼は、弾むような声で続ける。


「いい子にしていた子供達の所にはサンタクロースが来てね、彼らが眠っている間にプレゼントを置いていくんだ。子供達はクリスマスストッキングを用意しておく、そこに朝プレゼントが入ってるのを見て皆喜ぶのさ」

「……とても幸せそうな行事ですね。だから、街が浮ついている。けど、それは……アーリヤ様にとって不必要なものでは?」


 話を聞く限りでは、美しい物を見て美味しい物を食べて、友人や家族と仲を深めて喜びを分かち合う行事だと思った。だが、それはアーリヤ様の嫌うものであるはず。彼女にとって、クリスマスは害でしかないのではないだろうか。


「……フフ。分かってないなぁ、だからいいんだよ。幸せの後に大きな不幸が起これば、より反動が大きくなるからね。それに、その幸せの輪に入れない人間達から十分過ぎるくらいに力を貰えるんだよ。特に、コットニー地区なんてのは最高さ。彼らにはクリスマスなんて……ないんだから。俺らがな~んもしなくても、大多数の人が楽しむ行事では、どす黒い感情なんてのは勝手に発生するんだ」

「なるほど、そういうことでしたか」


 美しい物の裏には、汚くてどす黒い物が隠れている。それを、普段僕らが意図して起こすことでアーリヤ様は力を得る。

 けれど、こういう行事は――よりいっそう醜い感情が美しく輝きだす、そういうことだろう。だから、彼らもまた祝う。哀れな者達を嘲笑うように。


「そうそう、それじゃあ行こうか。まだ買う物はあるからね?」

「え!?」


 リズミカルに彼の走る音が聞こえ、それは段々と遠くなっていく。


「待って! 前が……うわあああぁっ!?」


 咄嗟に何も出来ないくらいの勢いであった。積み上げられていた箱は全て、無残にも落下した。中に入っていたのが、壊れるような物でなかったことだけが幸いだった。

 クリスマスは、素晴らしい行事であることはよく分かった。けれど、僕は好きになれそうにもない。準備だけで、こんなに物が必要になるなんて……当日は一体どうなるのだろう。不安に駆られる日々は――続く。

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