半殺し? いや皆殺し
―クロエ コットニー地区 夜中―
私達は仮面をつけて、コットニー地区へと降り立った。仮面をつけたのは、顔バレを防ぐ為である。有名人を気取っている訳ではないが、顔がバレてしまうとどうにも分が悪い。
「暗っ」
暗いのは重々承知していたが、暗過ぎる。街の方は夜中とはいえ、街灯もあってほのかに明るかった。それに比べて、ここはどうだろう。街灯もなければ、家の光もない。そして、人っ子一人いない。
「ここは昔からそういう場所よ。独自のルールが存在している……住人はそれに歯向かうことは出来ない。だからもう、夜中はただの住人達は眠ってる。そう、ただの住人はね」
その言葉の直後、違和感を感じ取った。どこからか、何かが私達を見ている。そう、視線を感じたのだ。降り立った瞬間にはなかったものだ。
「気付かれたみたいだよ」
「そうね、敏感だこと」
私達は戦いに備えて、身構える。すると、道に沿うようにある家の窓から、まるで虫のように沢山の人達がぞろぞろと現れた。
「おいおい、お姉さん方。ここは夜中、外部の人間立ち入り禁止だぜ?」
先に、私達の前に立った一人の男が言った。見るからにガラの悪い男だ。絵に描いたようなゴロツキ。
「ふーん、でもそれなら私達には関係ないね」
私は仮面の下で笑ってやった。残念ながら顔全てを覆い、息苦しいくらいのこの仮面では、その挑発の全てを理解しては貰えないが。
「……おうおう、突っかかってくんなよ。ムカつくなー、軽く半殺し決定な?」
男は指を鳴らしながら、私達の方へゆっくりと歩み寄る。すると、それを合図にしたかのように周囲を取り巻く他の者達も、徐々に私達に接近してくる。
「半殺しだって」
「そう、なら私達は皆殺しをしましょうか」
「え? あ、うん」
イザベラの殺気立った様子を見ると、仲間のこっちが凍りついてしまいそうになる。私達の組織の中で、スンムス・サチェルドスと呼ばれる地位、二番目に偉い位置にいるイザベラ。その地位を、守り続けているだけのことはある。
「はぁぁ? 皆殺しだってよぉ! 人数よく見ろ、糞女共が」
ざっと見るだけで、三十人近くはいるのではないだろうか。人数的には、やはりこちらが不利になる。
「よく見て言ってるわよ。殺しがいもなさそうで……つまらないかもしれないわ」
(イザベラ、めっちゃキレてる……)
「てめぇ……調子に乗りやがって! お前ら! 遠慮なんていらねぇ、二人まとめて半殺しだぁぁぁ!」
その言葉が、戦いの幕を開けさせた。
***
―牢屋 夜中―
(怖い……独りは嫌だ……)
自由も明るい光もない。あるのは、僕の呼吸音とどこからか響く風の音だけ。だから、僕は情けないほど怯えていた。
まだロイがいてくれた方が良かった。狂人と一緒でも、独りじゃないのなら何でも良かった。
(誰か……)
僕はあえて暴れ、孤独を凌ごうとした。加虐される趣味はない、でも独りはもっと嫌だった。誰かと一緒にいたい。独りになんてなりたくない。加えてこんな陰気な場所に独り、城の牢屋で自身の終わりに怯えたあの頃を思い出させられて嫌だった。
僕は再び体を捩じったりしながら、何とか起き上がり鉄格子に寄りかかった。そして、それを思いっ切り手で叩こうとした時のことだった。
「……爆発?」
小さな音であったが、間違いなく何かが爆発する音が聞こえた。それと同時に、人の叫び声も。遠い所、つまり外から聞こえている。繰り返し、何度も聞こえてくる。
「何が起こってるんだ? っ!」
次第に、その爆発音と悲鳴は近くなってきた。僕のいるこの場所も、その爆発音が響く度に震え始める。天井から欠片が沢山落下し、僕に降りかかる。
「痛っ!」
本能的に感じた、この場所に留まることの危険さを。しかし、僕はここから逃げ出すことが出来ない。死ぬことはないけれど、それなりの怪我は負うことになる。外が何かしらの大惨事に巻き込まれていることを考えると、僕がここで暴れても無意味だろう。
つまり、救いの手は――。
「やーやー大変大変、このままでは商品に傷がついてしまいますねぇ」
「……あ」
目の前に現れたのは、ロイ。差し伸べられることのないと思っていたその手は、今僕の目の前にあった。




