ヤバい奴
―コットニー地区 朝―
かなり驚かせてしまったようだ。というか、ドン引きされている。彼女の目は、完全にヤバイ奴を見る時のそれだ。
確かにやり過ぎたかもしれないけれど、一応助けてあげたのだから感謝くらいして欲しいものである。
「そのかごの……」
僕が歩み寄ると、その分彼女は尻餅を着いたまま後退する。僕が一歩踏み出すと、また彼女が一つ、いや二つは下がっていく。
「来ないで! 来ないでっ!」
「……酷いなぁ」
「酷いのはそっちでしょ。あんなやり方……最低!」
「最低? 最低なのは、さっきのマフィアの方じゃないか。僕は助けてあげたんだよ」
「助けてなんて言ってないでしょ!」
コットニー地区に住んでいるカラスにしては、随分と威勢のいい少女だった。ここに住んでいるカラス達は、大体陰気で見るだけで不幸になりそうな面構えなのに。
ただ、今のこの状況ではそんな彼女の扱いに少々困ってしまう。僕が悪かったとはいえ、これでは何も進まない。無駄だらけだ。
(これじゃあ、話にならないな。とりあえず、逃げられたら困る。こっちに引き寄せるしかないね)
僕は鎖を出して、彼女の体に巻きつけた。
「ひぃぃっ!? 何、何なの!? 何者なの、ってきゃああああっ!? がくっ」
予想だにしていなかった拘束、そして体を見た時に真っ赤に染まった体を見て、彼女は色々と衝撃を受けてしまったようだ。そのまま、白目を向いて後ろに倒れた。
「あ~あ……」
とりあえず、気絶したままの彼女を引き寄せた。
「血……ヤバイ……」
などと、気絶しながらも呪文のように言葉をぶつぶつと呟いている。
(はぁ、とりあえずこの子を連れて一度戻ろう。そこで、クロエにご飯をあげて……完全に回復させないと)
クロエと僕と根本的な部分が一緒かどうかも判断したい。恐らくは、大丈夫だろうとは思うが。
(それと、このクッキーとやらの作り方を教えて貰わないと)
僕は、かごからクッキーを取った。血で赤く染まっていたが、どんな味がしてどれくらい美味しいのかが気になり、口に入れた。
元々の色は茶色ではなく、白っぽい色をしているのでドールの望む物とは異なるのかもしれないが、それはとても美味しかった。
(サクサクしていて、噛み締める度に味わいが口全体に広がっていく。ちょっと口の中の水分が奪われていく感じがするけど。これがドールの食べたい物、か)
ドールもほとんど知らないような口ぶりだった。ここで、きっかけを掴めたのは助かった。
「さて、行こうかな……」
そして、僕は彼女を抱いてアーリヤ様の邸宅に戻った。




