防戦一方でも
―学校 朝―
「――メアリー! 危ないですっ!」
「大丈夫、はぁあっ!」
(……防戦一方。攻撃はほとんどしていない。だが、防御に関しては一級品だな。一人でも圧倒的だが、二人揃うと今のあれでは無理だな。あのシールドを一発で壊せるほどの力でもあればいいのだが。ちっとも攻撃が通らない。化け物が疲れていくだけ、なるほどね)
彼らが選抜者に選ばれた理由の一つが見えた気がした。メアリーがシールドを張り、ジョンが魔力回復の為の援助をする。そうすることで、継続的に防御魔法を使えるようにしている。
が、そのお陰で無駄にこの遊びが長引いている。見ている方とはしては、退屈でならない。
(防御が最大の攻撃……単純で力任せな攻撃をしてくる相手には、最も有効だろう。今のあれには思考がない。いずれ、化け物が疲れ果ててしまう。そして、終わる訳か……)
奇跡すら願えない状況だ。まぁ、最初からあまり期待などしていなかったが。僕としては、この学校に不安の種を根付かせることが出来ればそれでいい。そこから綻びが生まれ、混乱が生まれるのだから。
(う~ん、おもちゃは、一つだけじゃ足りないよね。おもちゃはもっと沢山いる。おもちゃ箱に、おもちゃは一つじゃない。もっと強いのがいいな。自我がなくても、それなりに力で圧倒出来るような存在が欲しい。あのシールドを一発で破壊出来るくらいの……)
化け物は何度も何度も突進を続けるが、その度にシールドによって防がれる。その中で、徐々に体に傷が増え動きが鈍くなる。それでも、化け物は諦めない。諦めることを知らないから、命令されたことだけしか出来ないから。考えるという概念すら存在しないから。
「もう諦めたらどうでしょうかっ!?」
「ジョン、この子に何言っても無駄じゃないの……?」
「ですよね、知っててやりました」
(あの二人、どちらかだけでも……おもちゃに出来ないだろうかな。きっと、それがいい劇薬になる。選抜者達にとっても、あの二人にとっても……勿論、この学校にとっても)
「グググ……ガァア……」
化け物はよだれを垂らしながら、少し離れた位置から二人を見る。そして、再び突進しようと身を構えた時であった。
「グガァッ!?」
化け物の体を、地面から現れた無数の針が貫いた。貫かれた体から、血が溢れ出る。
(嗚呼……なんて痛そうなんだろう)
「……来たか」
遠くを見ると、達成感に満たされた表情の先ほどの学生と、いつになく真剣な表情を浮かべたジェシー教授が箒に乗って現れた。
本気であるというのが伝わってくる。遠くからの威圧感だけでも、身震いしてしまいそうだ。逆鱗に触れてしまったということか。
(これじゃ、本当に彼女が死んじゃうな。多分、根本的な所は僕の性質と同じだろうから……よし、そろそろ撤退と行こうか。本当は夕方になるまで暴れさせたかったんだけど、彼女を死なせる訳にはいかないし)
「帰っておいで、もう終わり」
僕は指笛を吹いた。すると、針で串刺しになった化け物の体は黒く歪んだ空間に吸収され消えた。そして、僕もその後を追った。




