君から君を
―学校 朝―
雲一つない澄み渡るような青空が鬱陶しく感じるくらい、その日は晴れていた。その青空の下、学校に入って行く学生達の顔も同じくらい不快だった。
(嗚呼、腹立たしい。折角だ、気付かせて頂いたこの力で……少し遊ぶか。おもちゃを使ってね)
今朝、新しく手に入れたばかりのおもちゃを使って遊びたくてならなかった。童心に帰ったかのような気分だ。学校を掻き回す為の序章として戯れてみよう、と僕は指笛を吹いた。
すると、目の前の空間は大きく歪み、そこから大きな真っ黒なカラスが現れた。僕がそれをカラスだと認識出来たのは、それが元々は鳥族のカラスだと知っていたから。何も知らなければ、ただの化け物にしか見えないだろう。
「カ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛……」
カラスは、自身の存在を示すように一声大きく鳴いた。
「何? 何なの、あれ?」
「気持ち悪い! 化け物だ!」
「ひぃぃぃっ!」
すぐに異変に気付いた者達は、その化け物を見て我を忘れて逃げ出した。
「フフ……」
その恐怖に怯えて逃げ惑う彼らの姿を見て、僕の気分は高揚した。誰かの笑顔を見たり、幸せを見るよりずっと楽しい……そのことに気付いた。
「殺れ」
僕がそう命令すると、化け物は大きな羽で空を飛び、逃げ惑う学生達を追い始めた。
(クロエ、今の君の姿は最高だよ。僕は再三警告したんだ。君が忠告を無視するのであれば、順番に何かを奪っていくと。もう君には命しか残らなかったから、君から君を奪うことにしたよ。またお話が出来るようになったら、今度はちゃんと伝えてくれるよね)
僕にあったもう一つの力、それは生きる者を化け物の姿に変えること。アーリヤ様の力を、彼女の心の闇に注ぎ込み、それを彼女の体に入れた。僕のコントロールによって、彼女から自我を奪ったり与えたりすることが出来るらしい。
とりあえず、折角は新しい物で遊ぶ為に奪っている。こんな姿になっているなんて、彼女が知ったらショックだろう。きっと、それもまたいい闇になる。
(嗚呼、本当に化け物だ。改めて、第三者から見てみると殺してみたくもなるよねぇ。僕の本当の姿は、なんて醜いんだろうか)
彼女の姿を見ると、改めて僕の醜さにも気付く。それでも受け入れたつもりだった。だけど、心の奥底でどうして僕ばかり、周りの人も僕みたいになれば屈辱を感じることもないのにと思っていた。
そして、その思いは僕が思っていた以上に強かったらしい。
「さて……夕方になるまで観察するとしようか」
また十五時前にあの場所に行けば、あの授業を受けられるのだろう。期待外れのメンバーだったが、あの教授は素晴らしかった。と、同時に警戒すべき相手だが。
(透明化ならちょうどいいかな……魔力消費が激しいけど。今の状態なら、問題はないか)
僕は飛び上がり、透明化の魔法を使い様子を見守ることにした。




