力任せ運任せの無計画な奪還作戦
―クロエ 上空 夜中―
夜風に吹かれながら、私達は空を飛んでいた。空を飛んだ方が、目的の場所により早く辿り着くことが出来るからだ。
(夜の闇はいいわね。夜中は特に、街の電気も消えるし。私達の身を完全に隠してくれる)
体も楽だ。普段、無理して隠しているものを堂々と出していられるのだから。やらかしてしまったという憂鬱な気持ちが、これで少しだけ晴れた。
「ねぇねぇ、厄介な奴らって――」
「コットニー地区を取り仕切ってるマフィアよ。そこにいる仲間がその事態を目撃してね。もし、あの子達がいなかったらと思うとゾッとするわ。屋敷に運ばれてたって。早めに知ることが出来て、本当に良かった」
「あーあのボスが潜伏させてる子ら? へーそりゃ凄い。命拾いしたなぁ。てか、ボスもこのこと知ってる?」
「……どうかしらね。あの人は忙しいから、連絡もまともに取り合えない。連絡を送っても伝わってるかどうか……」
「まぁ、ボスだしねー」
一応、私のミスのことは何らかの形で送ったという訳だ。しかし、それをボスが確認しているかどうかは分からない。
巽君を寵愛しているボスのことだ。こんな最悪の事態、許してくれるはずがない。もし、その連絡を見ていたら、全てを投げ出してでもここに来ている可能性もある。それがないということは、そういうことだ。
「最低限度に済ませるわよ」
「でも、私達二人でどうにかなるかな?」
相手のアジトに、ホイホイと二人だけで飛び込むのだ。相手だって何かしら警戒しているだろうし、多分私達は大勢を相手に戦うことになる。
(二対……百とか嫌だな。疲れそう。帰れるかな?)
奴らの組織の八割は雑兵と考えてもいい。空腹と財に飢えた哀れな者達。だけれども、残りの二割は違う。雑兵から得た沢山の利益の上で寝転がる余裕があるほどの奴らは、ウザいことに強い。
私達は何度か奴らと戦ったことがある。こちらの利益に反すること、向こうの利益に反することだったからぶつかり合った。そのどれもが、向こうが圧倒的な数であったことは間違いない。
「どうにかするのよ」
「まさか……無計画だったりする?」
「計画立てる時間があるとお思い?」
イザベラは、少し眉をピクピクと動かしながらそう答えた。無計画は、彼女の意思に反することだろう。どちらかと言えば、彼女は計画をしっかりと立てる頭脳派だから。
「ないね。ないわ」
つまり、今回は当たって砕けろ。巽君を救い出せればそれでいい。力で解決するってことだ。
「そうでしょ? さ、そろそろ見えてきたわ。コットニー地区が」
きっと呑気に歩いていたら、疲れのせいでまともに戦えなかっただろう。それに、歩くことによるタイムロスも生じていた。歩いてここに来ると、大体三十分くらいかかる。
しかし、今回は飛んだことで約五分で到着した。やはり、飛ぶは正義だ。
「暗いねー。でも、奴らは起きてるのかな」
「何人かは起きてるでしょうね。というか起きてなくても、起きるわよ。静かに潜入出来る気もしないし」
「何か自分らの屋敷には、色々つけてるって聞くしね。あの子らの情報は、意外と結構役に立つ」
「本当に助かってるわよ、とても。さぁ……覚悟は出来てる?」
イザベラは、真剣な表情になってコットニー地区を見下ろす。これから、力任せ運任せの無計画な巽君奪還作戦が始まる。
「出来てるよ。ボスの所に来てから……ずっとね」
でも、私はこんな所で死ぬ訳にはいかない。まだ――復讐は果たせていないのだから。




