新たな力
―アーリヤの邸宅 朝―
(何故だ? 何故、屈さない? もう力も気力も、ほとんど残っていないはずなのに。一体何故……)
彼女を昨日拘束してから、それなりに時間が経過したはず。徐々に力を奪っているというのに、クロエは未だに何も明かそうとはしない。
「うぅ……あぁ……」
床に伏せて、うめくような声を漏らす彼女。言ってしまえば楽になるということが分かっていながら、どうして明かそうとしないのか。僕には分からない。家族でも友達でも何でもないのに。
「ねぇ、そろそろ諦めたらどう? 言ってしまえば、君はすぐに自由の身になるんだよ。こんな苦しみも味合わなくたっていい。君にとって、そんなに大事なことじゃないじゃないか。僕にとっては大事な過去だけど」
「諦めない……守る!」
彼女の決意の目は揺らぐ気配はない。決意の炎が煌々と燃えている。
「そうかい。なら――」
「面白そうなおもちゃで遊んでおるのぉ」
背後から心が落ち着く声がしたかと思えば、温もりを感じた。
「アーリヤ様……」
「この力っ! まさか、あんたが……!? 薄々と感じた邪悪な気配はあんただったの? じゃあ、巽君は……!」
クロエは酷く動揺した様子で、小刻みに体を震わせた。
「ほう、薄々でも感じておったとは流石じゃのぉ。じゃが、これが童の手に堕ちたことに気付くのがちと遅かったのぉ」
アーリヤ様は、僕の頬に触れながら続ける。
「巽よ、まだ気付いておらんのぉ。まだ特別な力が使えることに。欲深いそなただからこそ、成し得るものじゃ」
「僕だから?」
「駄目、騙されないで。惑わされないで! お願い、目を覚まして! アーリヤ! こんなことして許されるとでも――」
「うるさいっ! アーリヤ様に馴れ馴れしく話しかけるな!」
「あ゛あ゛っ!」
僕が鎖の縛る力を強めると、クロエは金切り声にも等しい叫び声を上げた。鎖は限界まで縛っている。これ以上縛れば、僕は彼女の命まで奪ってしまう。それではいけない。それでは、彼女の思うがままだ。真相を持ったまま、あの世に逝くなんて許さない。
「そう腹を立てなくても良い。可愛いのぉ」
「すみません……」
「フフ、折角のおもちゃがここにあるのじゃ。それを有効活用して、そなたの力を確かめると良い。わらわには感覚として、その力の使い方が伝わってくる。教えてやろう。さあ、その女子の前に立て」
「はい」
言われるがまま、僕は苦悶の表情を浮かべ床に伏せる彼女の前に立った。
「た……つみ君?」
「その女子に手をかざせ」
「はい」
何をされるのかと怯えた顔の彼女に、僕は手をかざす。すると、事はすぐに起こった。
「きゃあああ、あ゛あ゛っ !? 頭が割れるっ、やめ……いやあああっ!」
彼女の体が紫色に発光し始めたのだ。今までになく取り乱す彼女にはとてつもない苦しみが、それに伴って与えられているようだ。僕には想像もつかないが。
すると、間もなくして彼女は声を発さなくなった。焦点の定まらない目で僕を見ている。気絶している訳ではないようだが、妙な不気味さを覚えた。その彼女の体から、ぬっと紫色の発光する球体が出てきた。
「これは一体?」
「それは、女子の負の感情の塊じゃ。さあ、それを掴め」
僕は恐る恐る、その発光体を手に取った。瞬間、それは形を崩し、禍々しい光を放ちながら彼女に降り注いだ。




