処分
―エトワール ? 夕方―
「可哀想に。早く殺されていれば、彼らの怯える時間も減ったのに」
可哀想、ボスはそう言った。けれど、そんな感情はこれっぽっちも感じなかった。
(嗚呼、いずれ俺も……)
代わりもいないのに殺す、つまり完全にその役が不要になったということの証拠だった。失態という建前で、彼らは処分される。
「十七番目のステルラちゃん、十八番目のルナちゃん、十九番目のソル君。君達は使命を全う出来なかった。ステルラちゃんとルナちゃんは監視部屋でまんまと欺かれ、ソル君は巽君の部屋の前にいたのに変化に気が付きませんでした! そのせいで、巽君がいつの間にか脱出していたという事実にすら気付けませんでした。お陰で巽君がまた自分の体で好き勝手し始めて、魔力がかなり失われてしまいました! と言う訳で、その責任を取ってね! 役立たずは、いらないんだよ。さあ、五番目のパーパ君。殺って」
ボスは顔だけをこちらに向けて、満面の笑みを浮かべた。目はちっとも笑っていなかった。まるで、氷のように冷たかった。
「……御意」
俺には、ボスに歯向かえるほどの強さもない。遅かれ早かれ、どんな役職に就く者でも殺される。俺も時が来れば、即ち不要になれば消されるだろう。
俺は、拘束された三人組の前に立った。死にたくない、許して欲しい、何かの間違いだ――そんな目で俺を見る。立場故、弱さ故、ほとんどの真実を知ることが出来なかった彼ららしい目だ。
俺は思う。今ここで、俺に殺された方がずっと楽だと。後から死ぬ方が、苦しいだけだと。
(すまない。俺は……正義の味方でも何でもないんだ)
心が締めつけられるように痛い。彼らを見ると、昨日のように思い出せる。初めて彼らに出会った日、厳しい日々の中で仲間達で身を寄せ合ったこと。それらは全て泡沫だったとしても、その日その瞬間は間違いなく幸せだった。俺の中で、彼らは間違いなく家族だった。そんな家族を、俺は手にかける。
(楽に逝かせてやる。それが唯一、俺の出来ることだ)
俺は、未知の恐怖に怯える彼らに手を向けた。
「Glace」
そう唱えると、瞬く間に彼らの体は凍てついた。生きたまま、眠りにつかせた。もう彼らは何も感じないし、思えない。苦しみさえも抱かない。
「Destruction!」
そして、氷に覆われた彼らをそのまま粉砕した。何かを感じてしまう前に、全て終わらせてしまいたかった。飛散した氷は、床に落ちた瞬間に溶けてしまった。こんなにも簡単に、こんなにも単純に壊れてしまうものなのだ。
「フフフフフッ! これが、エトワールの殺し方ですか。血すら残さないなんて、残虐極まりないです! あぁ……血がたぎります」
「俺は……俺はっ!」
自分の犯した罪に、改めて気付く。事を起こす前に急ぐようにやったとしても、過ぎ去った後の時間に結局この感情に襲われる。何もかも手遅れで、どうしようもない時に。分かっていたことなのに。大切な人の命を同時に沢山奪ってしまったという事実は、想像以上に俺の心を蝕んだ。
「よく出来たね。さて、浸ってる所悪いけど。お前達には、超ビックな仕事があるからね。今から……やって貰うとしようか」
俺の思いを知りながら、ボスは何事もなかったかのように立ち上がり微笑を浮かべた。




