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初めての告白

―コットニー地区 夕方―

「きゃあっ!?」


 コットニー地区の中でも人気がなく、白い煉瓦がよく映える不気味な場所を選んだ。そして、鎖で拘束したクロエをゆっくりと地面に下ろして寝転ばせた。気絶するか、死ぬ一歩手前まで行ってもおかしくないと思ったのだが、彼女は結構平気そうな顔をしていた。


(瞬間移動で、ここまで平気なんて……)


「君、まさか人間じゃないの?」


 瞬間移動は、人の体に大きな負担がかかる。普通の人間であれば、心臓がとまっていてもおかしくない。そんなことがあれば、僕の命を分け与えようとしていた。

 けれど、彼女の顔色は血色も良く、こちらを睨みつける元気くらいはあるようだった。


「卑怯だ。こんな手段で……巽君っ、どうしちゃったの!?」


 彼女は、悔しそうに手を握り締める。


「答えて」


 僕は、鎖の縛る力を強くする。


「ああぁぁっ!」


 鎖が彼女の体に食い込み、苦痛を与える。


「……だったら何? 人間じゃなかったら、悪人だとでも言うの?」

「いいや? 誰もそうだとは言っていないよ。僕だって……クロエ、さんなら知ってるのかな」


 アーリヤ様のことだけを考えて尽くすのであれば、僕の過去など関係ない――そのはずなのに。知りたい、分かりたいという感情がどこからか溢れてくる。とめられなかった、彼女を見た時に感じたあらゆるものを解決したくて体が動いていた。

 きっと、その感情を解消することで、僕は真にアーリヤ様に忠義を尽くせるようになる。そう思い込んでいた。思い込むことで、行為を正当化しようとしていた。


「……今度はこっちの疑問に答えて。どうして今更、他人行儀な呼び方ををするの」

「フフ。君が知ってても、僕が君を知らないから」

「え……?」

「君が僕を助けてくれたあの日から、今日までの記憶しかない。この国での記憶はね。君の名前も、手がかりも分からない。どうしようもないまま、日常を過ごしていた」


 僕は初めて、記憶がないことを他人に告白した。どうせ、彼女は僕の秘密のほとんどを知っているのだろう。そう思うと、大して怖いものはなかった。

 

「記憶が……ない!? まさか……」

「何か心当たりがあるのかい? どうして記憶がないのか、僕には見当すらつかない。こんな気持ちを抱えたままでは……」

「心当たりというか……聞きたいなら、私を自由にして。コットニー地区にわざわざ連れ込むなんて、悪趣味にもほどがある」


 僕の弱みを握っていると分かった瞬間、彼女は状況的には不利であるのに高圧的な態度を取った。鎖で、きつく縛っているはずなのに。自分が有利になれる鍵を見つけた瞬間、不敵な笑みを浮かべながら僕を見上げた。

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