同一人物
―学校 夕方―
(やりたいことは一応出来たし皆疲れてるし、今日は解散……か。選抜者だから、多少は出来る人達だって期待してたのに。こんな僕に負けてしまって、あんな醜態を晒すなんて……はぁ。少しくらい耐えてくれれば、今頃暇することなかったのに)
僕の起こした風に飛ばされてしまわないよう、魔法で必死にその場に留まり続けた結果、選抜者達は魔力を大幅に消費してしまい立ち上がれないくらいに疲労困憊していた。
少し期待していた分の反動は大きかった。一方のジェシー教授は、僕の風をものともせず流石の貫録を見せつけていた。
(あの人は流石だったけど、参っちゃうなぁ。どうしよう……もう帰ってもいいけど、あそこはあんまりなぁ)
当初の予定が狂ってしまい、どうするべきか悩んでいた。コットニー地区に戻っても、あの不気味な白さとガラの悪い連中、陰気臭いカラス達が嫌だ。あの場所を任されているとは言っても、不快感を覚える場所には長居したくない。
(どうしようかなぁ)
「あ~! 待ってよ! クロエっ! ねぇってば!」
(クロエ……?)
「ごめん、ちょっと早く帰ってこいって連絡あってさ! 今日は無理なの!」
どうしたものかと考えながら歩いていると、騒がしい二人組が僕を走って追い越した。その時に聞こえた名前に、僕は反応してしまった。聞き間違いでなければ、もしかしたら――。
「約束したじゃんか~!」
「本当にごめんって! 次、明日なら大丈夫だから! 絶対に! でも、今日は無理!」
騒がしい声の先を見ると、赤髪の少女を金髪の少女が泣きそうな声で追いかけているのが見えた。
(彼女がクロエ……? っ!)
刹那、殴打されたような痛みが頭を襲った。それと同時に、走馬灯のように頭の中を映像が駆け巡った。その映像が消えた時に、痛みもなくなった。一体何だったのだろう、赤髪の少女を見た瞬間に変な感覚に襲われるなんて。
彼女には見覚えがある。この国での記憶の始まりの場所で、最初に見た人の顔が彼女だった。
「酷いよぉ~!」
「分かってよ、クリスティーナ! どうしても無理なものは無理なんだから……え!?」
赤髪の少女は立ち止まり、追いかけてくる少女の方を向いた。その瞬間、僕らは目と目が合った。すると、彼女は信じられないと言わんばかりの様子で目を見開いた。
「クロエ~? どうしたの~クロエ~? 向こうに誰か……って、誰?」
クリスティーナと呼ばれた少女は、僕の方を向いて首を傾げる。
「どうして……ちょっと待ってて!」
「えぇ? 何、えっ!?」
「そこから一歩も動くんじゃないわよ」
「えぇ!?」
命令するような口調で、彼女はクリスティーナに言った。
「見つけた……フフ」
まさか、赤髪の少女と監視役が同一人物だったなんて。何も知らないはずがない。それに、彼女を見た瞬間、奇妙な感覚に襲われた。彼女には、詳しく話を聞く必要があるだろう。
「た……タミ君。ここに来ちゃ駄目、下手に動いたりしたら……! また、あんな……」
「何? そういうややこしいことは……ここでじゃなくて、向こうで教えて貰うよ! 一対一で、君の知ってること全て!」
ここには別の人間も大勢いる。あまり派手なことは出来ない。僕はせめてもの目くらましにと、僕とクロエ以外の周りで風を起こした。吹き飛ばされない程度に目を開けられなくなるくらいの、力強い風を。
「きゃっ!? また、風っ!? 今日なんか変……クロエ、どこっ!?」
クリスティーナは片腕で目を抑えながら、もう片方の手でクロエに向かって手を伸ばす。僕は、その手が届く前にクロエに鎖を巻きつけ、こちらに引き寄せた。
「なっ!? 何の……真似っ!?」
「見ての通りだよ……一緒に来て貰う。クロエ……さん?」
そして、僕はそのまま彼女を連れてコットニー地区へと瞬間移動した。




