元気を出して
―ジェシー 学校 夕方―
タミと関わっている中で自身の身に何か危険を感じたら、提案したやり方で俺を呼ぶように言った。それを聞いた瞬間の彼らは、きょとんしていたが意外と受け入れてくれた。案外、こんな俺でも結構信頼されているのかもしれない。
その後、彼らの気分を回復させる為に大学内にあるカフェへと足を運んだ。肉体的な疲れは簡単には取れないが、精神的な疲れなら癒してあげることが出来る……かもしれない。
「さぁさ、好きな物を食べたり飲んだりしていいぜ! 今日は、俺の奢りだ!」
大抵の人間は自分への責任がなくなると、気持ちが軽くなるらしい。俺がそう言い放った瞬間、疲れ切った皆の目がきらりと輝いた。
「マジすか?」
ケビンが、嬉しそうに身を乗り出す。
「うん、こう見えても俺って金持ちだからよ」
「まぁ、大学の教授やってたら経済的な余裕も出てきますよね。折角ですので、先生のその言葉には甘えたいと思います」
マイケルは微笑むと、誰よりも先にメニューを手に取った。
「ちゃっかりしてますわね」
「……さぁあ、君達も遠慮してないで注文するんだ。ほれ、ほれほれほれしっかり見てね」
俺は残りのメニューを、それぞれに見やすい位置に置いた。
「わぁ……美味しそう」
「同じ物を食べましょう、メアリー。あ、このワッフルなんてどうですか?」
(いいねぇいいねぇ、青春だなぁ。でも、何だか微妙な距離感。それぞれの位置を守りながら……一線を超えられず……みたいな感じだったりしたら甘酸っぱいねぇ)
「ジェシー、ニヤニヤしてて気持ち悪い」
「ニヤニヤしてるんじゃねぇ、微笑んでるんだぜ」
「いい年したおっさんが微笑んでても、正直ニヤついてるようにしか見えないアル」
「同意ネ」
寝起きのシャオが俺の心に鋭く刺さる一言を言い放ち、メイがとどめを刺す。双子ではなく、幼馴染であるだけらしいが息ぴったりである。普段の授業からこんなのだから、こちらとしてはたまったもんじゃない。
(良かった良かった。思ったより、皆元気になってきてくれた。ずっと落ち込んだままでいられたら、力の源に影響が出てくる可能性がある。タミが奴らの手に堕ちていることは、ほぼ間違いない。タミがそこにつけこんだりなんかしたら……危険だ。それにしても、やっぱり美味しい物を食べるって大事だよねぇ。さて、俺も……久々にここの紅茶でも飲んでみようかな)
このカフェに最後に来たのは、およそ数年前だ。昔はここの常連で紅茶を嗜んでいた。けれど、ここで飲む紅茶より好きな味を出してくれる人を見つけてしまった為、ここから足が遠退いていた。
「いらっしゃいませ~ご注文はお決まりでしょうか? あれ……あぁっ!」
俺らがのんびりメニューを見て、談笑しながら何を食べるか考えていると、制服を着た若い男が机の横に立った。そして、俺の顔を見ると嬉しそうに声を弾ませた。
「お前は……っ!」
何だと思って話しかけてきた男の顔を見て、彼が声を弾ませた理由が分かった。後ろで髪を結んだ金髪の男、軽そうなこいつの名を俺は知っている。
「アレン!」
この男は、このカフェで盗み聞きをすることを楽しみながら働いている奴。学校内限定の情報通である。




