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憧れの人

―? 街 夜中―

「起きなさい!」

「うおっ!?」


 その声によって目覚めると、空が下で、地面が上になっていた。そして、私を睨むイザベラも逆さまだ。


「何をしているの、こんな所で! 危ないでしょ! 何を考えているの!」


 相当お冠のようで、魔神のような形相で私を睨んでいる。でも、逆さまだからそんなに怖くない。そもそも、魔神の顔を見たことがない。でも、多分イザベラと同じ表情だと私は思う。黒い瘴気を放ってるし。


「見ての通り、木の上で宙ぶらりんになっているんだけど」


 だけど、私は好きでこんな蝙蝠みたいなことをしている訳ではない。器用に足だけで捕まっていられたのは、ちょっとした幸運だった。


「馬鹿みたいなことしながら、馬鹿みたいなこと言わない!」

「馬鹿みたいなことを言ったのは私だよ? だけど、馬鹿みたいなことをさせる元凶を作ったのは巽君だからね」


 私を眠らせ、わざわざこんな危なっかしい場所に置いた。足癖が悪くなければ、今頃痛い思いをして目を覚ましていたに違いない。


「……その巽君のことなんだけれど。真剣な話だから、いい加減こっちの世界に帰って来てくれない?」

「私もそうしたい。だけど……ちょっとでも足を動かしたら落ちちゃいそうなの」


 正直、この体勢でずっと話続けるのは苦しい。頭に血は上るし、胃の中にあるパスタがそろそろ出てきそう。好き好んでこのままでいる訳ではない、それだけは理解して欲しかった。


「はぁ……本当、貴方って子は」


 イザベラは憂鬱そうな表情を浮かべて、ゆっくりと私に近付いて足に触れた。


「うおっあおっ!」

「ちょっと変に暴れないで!」

「怖い怖い! 高い所怖いの!」

「高い所怖いって……貴方ねぇ」


 そんな話をしている間に、私はいつも通りの世界に帰還することに成功した。すっかり忘れていた、空は本来上にあることを、地面は下にあることを。

 安心感を得た私は、ゆっくりと木の枝に腰を下ろした。この木は太い。枝も丈夫。彼は、いい木を選んだものだ。


「ふーサンキュー、イザベラ」

「その名前で呼ばないで。まったく……貴方は本当に言うことを聞かない」

「ごめんごめん。で、真剣な話を始めて頂戴な」

「はぁ……分かった。簡潔に言うと、巽君が厄介な奴らにさらわれたわ」

「おぉ」


(やれやれ、私にはあんな調子乗ったことを言っておきながら……さらわれるなんて)


 あの見事なまでの変化は忘れることは出来ない。徐々に黄色に浸蝕されていく左目を、許されるなら抉り出して眺めてみたかった。それが出来なかったのは、それより先に眠ってしまったからだ。


「おぉ、じゃないわよ。貴方、自分のやったミスを理解してる?」

「言い訳ならいくらでも出来るけど」

「そんなの聞きたくない。それに、あの人が怒るわ。だって、あの人は……彼を――」

「分かってる。でも、一人じゃ自信ない」


 私は自覚する。己の未熟さを。下には下がいるけれど、上にも上がいる。ここまで上ってきたけれど、まだ私は弱い。監視役でありながら、監視対象者以下の力では……。


(どうして、ボスは私を監視役に置いたのかなぁ)


 ボスの考えることは、正直分からない。不思議な人。理解しようとするから、何も分からないのかもしれない。


「その為に私がいる。大丈夫、私達は助け合うのがモットーよ。いいわね? クロエ」


 イザベラは、満面の笑みを浮かべながら私の頬を引っ張った。


「はいはい、分かってます。痛い」


 イザベラと一緒なら大丈夫だ。イザベラは、私達にとってお母さんみたいな存在。とても頼りになる人。私にとって――憧れの人だ。

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