大地を飲み込み、荒れ狂う暴虐の風
―学校 夕方―
僕は目を閉じて力を集中させ、頭の中でイメージを広げていく。
(大地を飲み込み、荒れ狂う暴虐の風……)
全てを飲み込み、破壊し、跡形も残さないくらいに強く荒々しい風。それが、学校全体に吹き渡る様子を想像する。
今の僕の状態なら、これくらいのことをやっても苦しくも何ともない。無限にとめどなく溢れてくる底知れぬ力、それを利用して学校を吹き飛ばすくらいのことは出来るかもしれない。
けれど、それでは掻き回して内面から崩壊させろというアーリヤ様の命令とは少しずれてしまう。だから、そこは制御する。
(風よ、吹き渡れ!)
「きゃあっ!?」
「体が浮く……!?」
「なんて力っ!」
「魔法を使いなさい!」
「落ち着け、冷静にやれば対処出来る!」
「先生、もうやめさせて……ぎゃあっ!?」
「ただの風を起こす魔法じゃない……」
「ヤバイッ!」
「こりゃあ、たまげたなぁ。よっと」
途端に周囲がうるさくなった。風の声が聞こえ始めたと同時に、選抜者やジェシー教授がわっと騒いだからだ。僕が目を開けると、あんなに穏やかだった周囲の状況は一変していた。
どこからか飛んできた道具が、軽々しく飛ばされていく様子。僕の起こした風に吹き飛ばされまいとしている選抜者達とは対照的に、風の中にいるとは思えないくらいに悠々と構えるジェシー教授の姿。
彼は、僕と目が合うなり笑顔を浮かべて言った。
「大したもんじゃねぇか。ちゃんと自分の周りには風が起こらないようにし、加えて周りの環境を破壊しない程度に風を発生させている。圧倒的なものだ。惚れ惚れするぜ」
「得意ですから。教授こそ……大したものですね」
「そりゃ、お前よりずっと年上だからな。経験の量が違うってもんよ。だからこそ……分かる」
「は?」
「お前の力の詳細が……な」
笑顔を浮かべる彼の瞳に一瞬、鋭い光が光った気がした。
「どういう意味ですか?」
「え? あぁ、そりゃパフォーマンスするのにどの位置が相応しいかってことに決まってんだろ。それは、こいつらも身に染みて感じてるはずだぜ」
彼はそう言うと、周囲で必死に踏ん張っている選抜者に視線を向けた。僕の起こした風に対して、自身の魔力で抵抗している。咄嗟にこれだけ対処出来るのは、流石は選抜者と言った所だろう。
「せ……先生、呑気にお話をしている場合ですかっ!? もう十二分に分かりましたよ、彼の持つ力は!」
「もう限界ですわっ!」
「体が……魔力が……」
しかし、僕の方が魔力では勝っていたらしい。彼らは苦悶の表情を浮かべ、鬼の形相で教授に訴える。彼らの足は、宙に浮きかけていた。
「あ~うん、タミ。もういいよ。よくやったね。もっと語りたかったんだけど、このままはまずいね。うん。タミ、終わり」
「はい」
僕が言われた通り力を緩めると、周囲は嘘のように静まり返り再び平穏を取り戻した。そして、選抜者達は糸が切れたように、フラフラとその場にへたり込んだ。




