不味い感情
―アレン アーリヤの邸宅 早朝―
(彼は、昔のあれに似ているなぁ。そういえば、元気かなぁ)
タミの部屋を出て、今度はアーリヤ様の部屋に向かいながら懐古していた。あまりに遠過ぎて薄れかけている記憶、だがふとした拍子に思い出すことがある。
例えば、かつての人物に似た誰かを見てしまった時とか、昔を思い出しやすい場所に行った時などとにかくきっかけは様々だ。それは、よくあることだろう。
「……どうした。姫君に何か用か」
彼女の部屋の前には、腕を組んだドライアドがいた。俺の姿を見るなり、眉をひそめる。嫌われていることは何百年も前から知っているが、ここまで露骨だとちょっとだけ傷付く。そう何百年も前から、露骨な彼女の態度にちょっとだけ心を痛めている。
「出勤前の定時報告的な?」
「今までそんなことをしたことがないだろうが」
「そうだっけ?」
「とぼけるな」
「冗談通じないなぁ」
「そもそもお前と通じたくないからな」
「辛辣だなぁ」
出会った頃はこんなに無愛想な女じゃなかったのに、気が付いたらこんなことになっていた。俺が、何かやったのかもしれない。
(あの頃は良かったなぁ。しみじみ……なんちゃって)
駄弁る為にここに来た訳ではない。本当にちゃんとした用事があってここに来たのだ。
「で、そこどいてくれよ」
「……何故だ?」
「俺がアーリヤ様に会いたいから」
「そうか」
「……うん、じゃあどいて」
「ほう」
しかし、彼女はそこを動く気配がなかった。まるで石像のよう。確固たる意志を感じた。
「君は、本当にアーリヤ様と俺を会わせたがらないよねぇ」
「会わせたくないからな。信用ならん」
「……何百年も、何なら君より前から俺の意思で尽くしてるのにな」
「っ、少しは気付け……」
彼女は、伏し目がちにぼそりと呟いた。聞き取れはしたものの、その言葉の真意のほどは分からなかった。
「どういうこと?」
「……別にいい」
すると、ドライアドの背後がぐにゃりと歪んでそこからアーリヤ様が現れた。
「フフ、鈍いのぉ」
「はっ!? 姫君!?」
こっちに夢中になっていたのか、ドライアドは突然声をかけられて大きく体勢を崩した。
「ドライアドやドール、そして巽の感情はわらわに流れるように伝わってくるからのぉ」
アーリヤ様は背後から、ドライアドの顎を優しく摩りながらそう言った。すると、ドライアドは少し頬を赤らめてどこか照れ臭そうに身を委ねていた。
「先ほど流れてきた巽の感情、実に美味であったぞ。お陰でかなり調子が良いのじゃ」
「そうでしょう? そのことを伝えようと思って来たのに、ドライアドが邪魔するから……ま、いいか」
「ほう……そうじゃ、今流れてくる感情は少し不味いのぉ。そなたのせいじゃぞ、ウフフ……」
アーリヤ様は悪戯っぽく笑いながら、俺を見据える。
「不味い?」
「ひ、姫君っ! アレン、お前はさっさと行くべき所へ行け!」
ドライアドは突然焦りの表情を浮かべて、俺を追い払うような仕草を見せた。
「はいはい、行きますよ~分かりました分かりましたよ。やれやれ、じゃあ今日も傍観してきま~す」
俺も、体に負担がかからない瞬間移動出来るようになりたいものだ。適当に荒ぶるドライアドをあしらいながら、俺は学校に向かって歩み出した。
https://ncode.syosetu.com/n5041fc/
この物語に関係のある詩的なものを投稿してみました




