何も出来ない屑
―牢屋 ?―
(嗚呼……どうしてこんなことに。僕はただ……真実を知りたいだけなのに)
一体、どれほどの時間が過ぎたのか。そもそも、ここで最初目覚めた時にはどれほど経過していたのか。考えるのも嫌になる。
(体が重いが……こっそりと魔法を使って脱出を試みてみよう。下手に動いたら、またあの歌を流される。それだけは勘弁だ)
ロイは、今はいない。だが、この部屋に監視する為の何かがないとも限らない。やるならば、上手く器用にこなさなくてはいけない。
その為に最初にぶつかる課題は、体の自由が利かないということ。特に手が使えないのが大きい。最近の魔法は、対象物に手を向けることで発動するものだ。しかし、このきつく縄で縛られた状態で魔法を使うのはかなり危険が伴う。せめて、片手だけでも拘束が解ければいいのだが。
(出来るだろうか……)
試しに、僕は手を動かしてみた。しかし、縄は解ける様子はない。このままこの行為を続けることは、無意味だと感じざるを得なかった。
それでも、魔法が使えないという訳ではない。まだ、方法はある。方法自体はあるものの、これは縄を解く行為よりもよっぽど危険だ。
(クソ! だが、ここで諦めるという訳にも! こんな所でいいようにしてやられる訳にはいかない! でも、呪文を唱えるのは……)
ここは、よく声が響く。囁き声でも、声を発せばバレてしまうかもしれない。
(どうするべきだ? いや……迷っていても仕方がない。やってみなければ、何も始まらない)
僕は覚悟を決めた。僕が今から使うのは古い魔法。呪文を唱える必要性があるものだ。新たな魔法は、それを省き効率化を図ることに成功した。まぁ、新しい魔法も既に生まれてから二百年以上経過しているが。
とにかく、古い魔法は呪文を唱える必要があるのだ。手間も時間もかかる。ここなら、危険も伴う。もし、失敗してしまうと――。
(やるんだ、僕は。あんな歌耐えればどうにでもなる!)
「我が身を縛る物を解け……我に、自由を……」
そう、小声で呪文を唱え始めた時だった。体がまるで漬物石でも置かれたかのように、さらに重くなった。それに、喉を絞められているかのような苦しさ、窒息感。
(駄目だ……出来ない。苦しい。声が出ない……まさか、この牢屋では魔法が使えないようになっている?)
魔法が使えない牢屋なら、僕の国にもある。魔法を扱う国なら当然。牢屋は、人間がどれだけ足掻いても魔法が使えないようになっている。
その仕組みが同じなら、僕は魔法は扱えると思っていた。だって、僕はもう人間ではないから。彼と混じった人間だったものだから。
ところが、その考えは甘かったみたいだ。僕の国みたいに安っぽいものではない。それが、こんな簡易的な場所にでも存在しているとは。
(魔法が使えないし、剣も振るうことが出来ない。このままだと、僕はただの……何も出来ない屑じゃないか……)
突然当たり前に扱えるものを奪われた時、僕は何も出来ない屑へと姿を変える。ただでさえ、僕は役立たずなのに。
(商品価値……嗚呼、商品にもなれない)
これから、僕はどうなってしまうのだろう。分からないから、怖い。見えないから、怖い。怖くて仕方ない。僕は弱い。ずっと弱いまま成長することすら出来ずに、いつか僕にも来るであろう死を迎えるのだ。




