邪悪な気配はどこから
―学校 夜―
大きな立派な建物が周囲に立ち並んでいる。それらの周りには緑が融合し、しっかりと整備されている。まるで、一つの町のようだった。
それに、こんな時間なのに学内には大勢の人がいた。それぞれの表情を浮かべ、温かな光の灯る長方形の建物に吸い込まれていく。
(彼らも生徒なのかな? ここに住んでいるのか? だとすれば、住居まで用意されているのか? まぁかなり広いみたいだし、それも可能か)
僕の常識と、この国の常識はやはり大きく異なる。この国で過ごした記憶がほぼない僕にとって、何もかも目新しく映った。
(学校……学ぶだけの場所なのに、どうしてこんなにしっかりとした建物や自然が用意されているんだろう? 分からないな)
学ぶ為には、ここにある物が必要となるのだろうか。それとも、学び以外の為に用意されているのだろうか。疎い僕にはよく分からない。
僕の国にある学校はもっと小さかったし、建物だって一つだった。そこで学ぶ人は限られていたし、かなり少なかったと聞く。僕はそこに行くことは事情によって叶わなかった。学校のあるべき形が分からない、システムも。ここの形が正解だとすれば、僕の国にあるものは不正解だったのだろうか。
(……って、なんでこんなことばかり考えているんだ。もう僕には関係のないことじゃないか。それより……)
余計な雑念を振り払い、僕は目の前を歩く彼に意識を向けた。
(この学校の先生ってことでいいのかな? 髪はピシッっと決まってるけど、服はかなり着崩してる。見た目はかなりチャラいけど、何だろう? 底知れぬ何かを感じる……)
先ほど僕に向けた鋭い視線、まるで全てを見透かされているような気分だった。今も継続して痛みは続いているし、どうしたものだろう。愛想笑いはあまり通用していなかったし、引き続き手を握ることで誤魔化すしかないのかもしれない。
(それに、この人……ずっと昔から知っているような……)
幼い頃には、既に会っていたような感覚。でも、記憶を失っている間の期間でしか会っていないはずだ。国でこんな人と会話をした覚えはないから。
けれど、どこか懐かしさを覚える。まるで、兄弟に再会したかのような――変な気分だった。
―ジェシー 学校 夜―
(……消えていない、あいつ――アーリヤの邪悪な気配。しかし、ここは俺のお膝元も同然。アーリヤの手の者でも、流石にアーリアでも、ここに入れば死ぬ。一体、どこから? まさか、タミってことはねぇよな? いやいや、だとしたらとっくに死んでる。どういうこっちゃ?)
俺はタミを道案内しながら、感じている邪悪な気配について分析していた。異端なる存在が堂々と校門から侵入してきた違和感、それを感じ取って校門前に行った。
すると、そこにはタミがいた。どこか苦しそうな表情を浮かべていたが、こちらを見るなりすぐに引きつった笑顔を浮かべた。それは、まるで何かを誤魔化すような。
(いや、あらゆる想定をしなくては……もしも、こいつに死という概念がなかったとしたら? 人間じゃなかったとしたら? もしも、そうだとしたら俺は……だが、特に今は何をしようとする気配を感じない。とりあえず、要求には応えてやるか)




