胸を刺すような痛み
―学校 夜―
僕なりに調べて、学校に到着した頃には既に辺りは真っ暗になっていた。場所を知っていれば、瞬間移動も使えるのだが。
(街にも山にも近い……学びに最適な場所なのかな)
街に置いてあった地図を広げ、タレンタム・マギア大学という名を一生懸命探した。似た名前の大学に入り組んだ地形のせいで頭が軽くパニックになったが、辿り着いたので良しとする。
(本当に僕はここに通っていたんだろうか? 見ても何も思い出せない)
それなりの期間通っていたはずの場所、見れば何か思い出せるかもしれないと思っていた。だが、感じるのは僅かな既視感。ただ、それだけだった。
(……まぁいい、思い入れがなければやりやすいだけだ)
そう、僕にはこの学校を内部から崩壊しなければならない。この学校は、アーリヤ様にとって不必要なもの。彼女が排除せよと望むのならば、それに応えなければ。
(夜だが明かりはついているな。門も開いているし、まずは様子見をしてみるか)
僕の身長を遥かに超える茶色の煉瓦の門を潜り、学校に敷地内に足を踏み入れた――瞬間だった。
「っ、ぐ!」
胸をナイフで突き刺されたような痛みが、僕を襲った。咄嗟に胸に視線を向ける。しかし、特別何か起こっている様子はなかった。
(なんだ? これは……)
継続的に突き刺されるような痛みが続く。記憶が呼び起こされる前兆であれば良かったのだが、頭の中に過去の思い出が流れてくることはなかった。
「――タミ!?」
すると、突然前方より気配を感じた。と、同時に痛みに苦しむ僕に向けられた声、そちらに顔を向けると驚愕の表情を浮かべた男性がいた。しかし、僕の顔を見るとすぐににやついて、馴れ馴れしい口調で話しかけてきた。
僕は不自然に思われないように胸から手を離し、表情から苦痛を悟られないように笑みを浮かべた。愛想笑いなら、唯一出来る得意分野のはずだから。
「お前、もうとっくに授業終わってんぞ~? 来るなら、もうちょい早く来いよな? 色々伝達事項とかがあるのによ」
「は、はぁ」
胸の痛みは継続してあり続けた。話を聞く分には問題なかったが、こちらから展開するのには少々胸が苦しかった。
「お前、明日授業は何限からだ?」
「え?」
(何限? 何限とはなんだ? 時間ではないのか? こっちでの単位は限なのか? いや、そんなはずはない。学校特有の表現の仕方なのだろうか?)
「どうした? まさか、バカンスにでも行ってたのか? それで曜日感覚狂ったとか?」
「……そんなくだらないことはやっていませんよ」
「本当か? にしては、ずっと笑顔が引きつってるように見えるんだが」
「うっ……」
(くそっ、痛みのせいで笑顔すらまともに作れなくなってしまったか)
「へいへいへい~何を隠してんだよ?」
彼は笑みを浮かべながらも、鋭い視線を僕に向けた。偶然かもしれないが、何かを察されているような気がした。
(愛想笑いすら出来なくなるとは……駄目だ、こんなんじゃ。僕には、アーリヤ様の為に成すべきことがあるんだから。この程度の苦痛には耐えれるようにならなければ……彼女の力にもなれない!)
僕は痛みを気を逸らす為、手を強く握り締めた。気休め程度だったのだろうが、僕はそれで僅かながら痛みを忘れていられた。
「ったく、どんな理由をつけてちゃんと学長に許可貰ったんだよ。そのツラは絶対にサボった奴の顔だ!」
何を持って確信したのか、僕に向かって勢い良く彼は指差した。
「サボってなんていません」
(許可を貰っていたのか? いつの間に……あ、そう言えば学長って言ってたな。その人なら覚えがある。一度、電話でだが国でやり取りしたし。よし、その人に会ってみよう)
「あの、それより学長……っていますか?」
「学長? あぁ、そういや今日は珍しくいたような……学長室にいたぞ」
「学長室……どこにありますか」
「は? 久々過ぎてそれすらも覚えてないってか。一々説明するのも面倒だ、案内してやる。来い。ついでにそこで、サボって申し訳ございませんでしたって謝れよ。はぁ……」
彼はわざとらしくため息をつくと、足早に歩き始めた。これについて行かなければ、右も左も分からない僕には何時間かかることだろう。本当は一緒にいたくはなかったが、致し方なく彼について行くことにした。




