ハッピーエンドを目指して
―リアム 学校 夕方―
(あ~あ、今日もタミ来なかった)
最後にタミを見たのはいつだっけ、そう感じるくらい遠い日のように思う。俺がぼんやりと夕日に染まった空を眺めていると、ジェシー教授は不機嫌そうに近付いてきた。
「おい、サボってんじゃねぇよ。ってか、最近練習に身が入ってないんじゃねぇか? 折角、魔法が使えるようになったのに。そんなんじゃ、マギアの名が廃るぜ」
そう、今は授業中。今日、最後の授業だ。しかも、タレンタム・フェスティバル選抜者だけの特別な授業。その面々は、魔術や魔法で様々な功績を残している優れた者達らしい。一年生は、授業で秀でていると判断された者が選ばれる。その者達の中には、タミの名前もあった。
が、彼はずっといない。選ばれたことすら、きっと知らないのではないかと思う。タミさえいれば、俺はこんな風に身が入らない日々が続くこともなかっただろう。
「だって、タミが来ないんですもん」
自然とやる気が損なわれていく。今なら授業中につまらなそうにしている人の気持ちが分かる。集中出来ない、気になって気になって仕方がない。タミはいなくならないと思っていたから、ただ悲しい。こんな気持ちになるのは、いつぶりだろう。
「俺は、一分一秒でもタミと一緒にいたいだけなんですよ」
タミが何をしているのか、そもそもこの国にいるのかどうかすら分からなくて不安だ。ようやく、再びこの世界で巡り会えたというのに。
「映画で恋人を待つ奴みたいになってんぞ。キモイぞ」
「友達として心配なんですもん。教授は心配じゃないんですか!?」
「……確かにあいつはかなり休んでいる。だが、正式な届け出が出されている。学長の許可も出ている以上、一雇われ教師である俺がずかずかとどうにか出来る領域じゃねぇ」
教授は、肩を少しすくめて両手を広げた。本当に分からない、そんな表情を浮かべて。
「それに、あいつは分からなさ過ぎる。学校の一部を壊したり、行き過ぎた暴力行為を起こしてもお咎めなし。俺が思うに、あいつは――」
教授は神妙な面持ちで、じっとこちらを見つめながら言った。
「理事長の身内なんじゃね?」
「……え?」
真剣な表情で何を言うかと思えば、そんな的外れもいい所の推測だったとは。
「だ~か~ら、タミはこのタレンタム系列学校の理事長の身内なんだって。じゃなきゃ、ありえねぇだろ? 普通、色々とさ」
次に浮かべたのは、完璧な推理をしましたみたいなしたり顔。でも、違う。
(……教授はすぐに陰謀論とか言い出しそうなタイプだ)
「その説は否定します」
申し訳ないが、タミに関しては教授よりは知っているつもりだ。本当の彼の立場を……この世界に来た時にあの人から聞いているのだから。
けれど、その人はどれだけ聞いても現在のタミのことを教えてはくれない。知らないはずないのに、何か知っているはずなのに。
「……あっそう。あ、てかちゃんと集中しろよ! リアム、お前は居残り決定だからな!」
肯定しなかった俺が気に食わなかったようだ。ふんと鼻を鳴らして、教授は俺の前から去っていった。
「……はぁ」
学校に携わっている教授なら、何か知っているかもと期待した俺が愚かだった。俺自身が調べる他ないのだろうけれど、一人で行く勇気がない。とても恐ろしい相手を欺くのはリスキーだから。
(嗚呼、君はまたいなくなるのかい? 何も言わずに……タミ、いや巽。どこかでこの空を見ているのかい? こっちの世界の君は……戻って来てくれるよね?)
また同じ空の下で、同じ場所で幸せで楽しい学校生活を送れることを俺は望む。それが、俺の最高のハッピーエンドまでの過程だから。
(――神よ、見ているのなら、この願いを叶えてくれ)
俺は手を組んで空を見上げ、そう願った。




