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行動で示せ

―コットニー地区 昼―

「学校……」


 この国での白髪の男性に出会う以前の記憶がない僕には、学校の名前も場所も分からなかった。事前に通う学校の名前くらい把握しておくのは普通なのだろうか。正式な入学をしなかった為、とりあえず情報を集めることが出来ればそれで良かった為、全て僕は手続きを大臣達に丸投げした。立派な頭を持っていなかった僕には、理解できるようなことではなかったのだ。

 それが結果的に仇となり、関係のない人達を巻き込み殺すに至った。


「そうじゃ、お主の通っておった……何じゃったかのう?」

「――タレンタム・マギア大学。魔術の権威」


 僕とアーリヤ様が話していると、僕の右隣りの景色がぐにゃりと歪んでそこから緑髪の女性が現れた。


「おぉ、ドライアドか」

「姫君、あまりここにいるのは良くないかと。劣悪な環境、姫君には相応しくありません」


 緑髪の女性は、アーリヤ様に足早に歩み寄る。歩く度に肩まで伸ばした新緑のようなその髪は、木々に実る葉のように揺れた。そして、彼女はアーリヤ様の前で跪く。


「うむ……」

 

 そんな彼女に対して、アーリヤ様は少し不満げに頬を膨らませた。


「まだ万全の体調ではありません。もう望みの男は手に入れたのです、今はしっかりとその体を休めるのです。来るべきに備えて」

「そなたは何百年経っても、口うるさいままじゃのぉ」

「主を心配するのは当然のことかと」

「……分かった、分かった。はぁ、後のことはそなたに任せよう。そなたは頑固じゃ」

「お任せ下さい」

 

 やり取りを終えた瞬間、アーリヤ様は気怠そうな表情を浮かべて黒い異空間に吸い込まれるように姿を消した。

 それを確認して、女性はゆっくりと立ち上がる。


(折角会えたのに……もうお別れだなんて)


 ようやく満たされた感情が、再び僕の中で大きくなっていく。僕はもっと話がしたかったのに。


「さて、巽と言ったか? 選ばれし者よ」

「……誰だ」


 アーリヤ様に会えた喜びのあまり、演じるのを忘れてしまっていた。まぁ、彼女の前で演じる必要はないだろう。けれど、この人の前では――。


「それが年上への態度か? 姫君の時とかなり違うではないか。ふん、いずれ分からせてやる」


 緑髪の女性は僕の態度が不満だったのか、怒りと挑発が混ざったような笑みを向けた。


(年上?)


 彼女はそう言ったが、年齢は見る限り僕とそう変わらないように見えた。しかし、見慣れぬ髪色だ。それによく見れば、その髪の隙間からアーリヤ様と同じように尖った耳が覗いていた。


「誰だと言っている」

「動じないとは大した奴だ。しかし、おかしいな。かつての様子とはかなり異なるが……まさか、奴に余計なことを吹き込まれたのか?」

「何のことか」

「まぁいい、些細な問題だな。さて、先ほど姫君が仰ったように学校を内部からゆっくりと崩壊させよ。それが、お前の出来る姫君への恩返しだ」


(それは構わない。けれど、場所が分からない。名前が分かったから調べれば分かるだろうか。いや、でも場所が分かっても、僕がどんな立場であったかが……)


 未だ誰にも言えずにいる、記憶がないということを。アーリヤ様には言ってもいいかもしれない、けれど万全の体調ではない彼女に伝えるのは良くないのではないだろうか……そんな思いが邪魔をする。


「……どうした? まさか、もう恩を忘れたとでも?」


 記憶がないことで悩んでいると、その間を不審に感じた彼女が僕を威嚇するように睨んだ。


「違うっ!」

「どうだかな、お前は危険な男だ。私自身はお前を受け入れた訳ではない。しかし、主が望むことは叶えなければならない。本当にそうだと言うのなら、行動で我に示して見せよ」

「言われなくても分かっている!」


 まるで、信用されていない。知らない相手に、短期間にこう何度も嫌悪されるのはかなり腹が立った。


「満足させろ、私も――当然、姫君も」


 心配されなくても、僕はアーリヤ様に力を授かり忠誠を誓った身。歯向かうような行為は決してしない、する訳がない。信用されていないというのなら、行動でそれを示す。もうウジウジと悩んでいる暇はない、やってやるのだ。僕の居場所も、彼女も守る為に。

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