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圧倒的な支配者

―コットニー地区 昼―

 あの立派な館を見た後に、周囲の状況を見るとかなり廃れていると感じた。煉瓦はボロボロだし、所々家には穴が空いていた。

 さらに、すれ違う黒髪のカラス達はかなり疲弊し、まるで皮と骨が歩いているかのようだった。


(改めて見ると、かなり汚い場所だな。こんな所……何の為にあるんだ?)


 マフィアがただ傲慢に振る舞う為だけの相手、それがここにいる弱々しいカラス。歩き続けて何時間か経過したが、もう何度か見た。横柄なマフィアに好き勝手される黒髪の者達を。

 何をする訳でもない、抵抗する訳でもない。感情を露にする訳でもない。ただひたすら相手が満足されるまで、殴られ蹴られ血を流し続ける。痛みを与えられ続ける。

 僕には関係のない者達。しかし、こう何度も見せつけられると僅かに憐れみを感じる。彼らの存在意義は、マフィアのストレスの捌け口。本当に何の為の場所なのだろう、ここは。


(でも、ここにいるのが僕の役目だし。これが、アーリヤ様の思いならそんなこと考えちゃいけないな)


 結局、考えることを捨てられなかった。ドールと言われた少女のようにはいかない。そんなに単純でも、簡単なことでもなかった。


「――タミ! タミじゃねぇかぁ!」


 突然、背後からこちらに向かって走って来る足音と嬉しそうな声が聞こえた。


「は?」


 振り返ると、そこには見たこともない黒髪の少年がいた。


「無事だったんだな! 良かったぁ!」

「はぁ?」


 感動の再会みたいな雰囲気を醸し出されても困る。最近よくあるパターンだが、もう面倒臭い。どうせ知らないことだ、考えても答えが出ないことだ。


「わし……もうタミは死んだんじゃないかって思ってたぜ。あいつらに連れて行かれて……」

「くだらん、どうでもいい」


 過去は、もう関係ない。あってもなくても、今の僕にはどうでもいいこと。


「え? 何か雰囲気変わった? それとも、意地悪してるだけ? 酷いぜ~一緒に駄弁った仲だろ?」

「ゴミ以下と関係を持ったつもりはない」

「っ、その言い方……まるで、アレンみたいじゃないか。どうしちまったんだよ、なぁ――」


 少年は怪訝そうな表情を浮かべながら、僕の手に触れようとした。


「気安く触れるなっ!」


 感じたのは、怒り。それと同時に、体の奥底から力が湧き上がってくるのを感じた。


「うぎゃあっ!?」


 僕は触れられるのから逃れる為に自身の手を振り上げ、拒絶する為に力強く叫んだ。すると、少年は振り上げた僕の手のひらから伸びる紫色の鎖に縛られ吊し上げられた。鎖は途中から枝分かれし、少年の四肢を縛っている。


(これは……!?)


 試しにその手を動かしてみると、鎖も呼応するように動いた。


「ううっ! いてぇ……」


 僕が手を動かす度、締め付けられて痛みでも感じているのか彼は顔を歪ませた。その表情を見ると――不思議と心が躍った。


(ははっ! これは面白い……!)


「ゴミ以下の分際で、私に軽率に触れようとした罰だ」

「……タミ、お前っ!」


 こんな掃き溜め以下の場所で、何の魅力もないこの場所で、僕は意義を見つけられた気がした。この場所でなら――父上のような圧倒的な支配者になれる、と。

 

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