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運が悪い

―牢屋 ?―

 目を開けると、まるで牢獄のような場所に僕はいた。薄暗くて臭い、しかも体の自由は利かない。何とか体をよじったりしながら、身を起こす。


(酷い倦怠感だ……ここは牢屋……? それにこれは?)


「ここ、は……」


 恐らく、あの歌を聞いて耐えきれなくなって、僕は気絶してしまったのだろうと推測する。だとしても、何故僕はこんな場所にいるのだろうか。何故、体を拘束されてしまっているのだろうか。

 両手と両足を縄で縛られている。間違いなく、僕は何者かに捕らえられている。あのコットニー地区で意識を失い、道案内をしてくれていたコルウスもいない。


「ククククククク……ようやくお目覚めですかぁ」


 鉄格子の向こう側から、人影が現れる。


「誰……ですか」


 その匂いに覚えはない。


「どうもどうも。ここら辺取り仕切ってます、ロイ=ジョーンズと申します~以後お見知りおきを」


 ロイは律義に頭を下げた。そして、顔を上げると鬱陶しそうに長い金髪を掻き上げた。


「そんな貴方が、僕に何か用ですか」

「用があるから拘束してんですよ~。でなければ(わたくし)、ただの変人じゃあありませんか」


 用があろうがなかろうが、僕をこんな風に拘束している人間がまともな奴とは思えない。コットニー地区を取り仕切る組織の奴なら尚更。


「……あぁ、やだやだ。そんなに睨まないで欲しいですねぇ」

「僕は貴方に用はありません」

「こっちがあるって言ってんだよ! あぁ!?」


 突然、ロイは態度を豹変させ鉄格子を蹴った。そして、座ったままの僕の目線に合わせるようにしゃがみ込んで口を開く。


「おめぇには商品価値があんだよ。黙って大人しくしてろよ」


 見開かれた目が、僕を吸い込もうとしているようにさえ思えた。そして、今度はにっこりと笑みを浮かべて、優しく僕に語りかける。


「大人しくして下されば、私達は何も致しませんから。ククク!」


 狂気の笑みに歪んだ頬が、僕に恐怖を与えた。


「……ふざけるな! 早くここから出せ! 僕は商品じゃない!」


 僕は、拘束された両手を鉄格子に力強くぶつける。勿論、痛い。骨と鉄のぶつかり合った音が、少し辺りに響いた。


(自由を奪われたままでは……僕は何も出来ない。何も調べられない)


「商品ですよ。私がそう決めたので」

「黙れ! ここから出せ! 僕は……僕はっ!」

「うるせぇって。言ったからな?」


 ロイはそう言って、指を鳴らした。その瞬間だった。


「◎◇×▼×〇~♪」


 気絶する前と同じ音楽が、この牢屋で響き始めたのだ。


「あ゛う゛っ゛があ゛!」


 頭が割れてしまいそうで耐えられず、僕は耳を塞ごうとした。だが、それは叶わない。だって、両手は縛られているのだから。無理矢理体を動かした反動で、僕は倒れ、その際に頭を強く打った。だが、その外部から来る痛みが内面から来る痛みによって掻き消された。

 そして外で聞いた時よりも、さらに僕は苦しみを覚えた。ここが、閉ざされた空間で響きやすいのが影響しているのかもしれない。


「イタイイタイイタイイタイイタイ!」


 僕は、まるで地面でうごめくミミズのように体を必死に動かした。どれだけ暴れようとも、その歌は聞こえ続けるし、この苦しみから解放されることもない。頭が粉砕されていくような、体を真っ二つにされた時よりも酷い痛み。


「や……め……イ゛ダイ゛イ゛ダイ゛!」

「だから言ったじゃないですか~痛い思いをしたくなければ、大人しくしてろって」


 ロイがそう言って、再び指を鳴らした。すると、その音はぴたりと収まった。頭が粉砕されそうな痛みは、徐々に引いていく。


「はぁ……はぁ……」

「まぁ、暴れたければ暴れてもいいんですよ。おめぇが加虐される趣味があるならなぁ! ククククククククク……!」


 やはり、僕は運が悪い。出会う奴の大半が、まともとはほど遠い人物ばかりだから。

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