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抱き寄せて

―アシュレイ 森 昼―

 手をかざされた瞬間、男の体は薄っすらと緑色に発光した。すると、翼や体に突き刺さっていた黒い物体が溶けるように消え、傷口が小さくなっていった。


「うぅ……」


 男は、うめくような声を漏らす。


「良かった、間に合った」


 先輩は、ホッと胸を撫で下ろした。


「そうですね、じゃあ次は木の上のレディを」


 無事だったのなら、ますますどうでもいい。それより、木の上で放置されているレディの方が心配でならない。


「はぁ、本当に男には関心がないんだな」

「レディの方が美しいじゃないですか」


 私は地面を蹴り、再び宙に浮いた。下から見るだけでも十分ため息が出るくらい美しかったけれど、真正面から見るとその美しさに心底酔いしれてしまいそうだ。いや、もう既に酔っている。

 その顔は私の知る人物――巽にやんわり似ていた。しかし、姉弟と言っても魅力は圧倒的に彼女の方が上だ。


「……誰?」


 彼女を抱いた時、私の腕の中で目を覚ました。おぼろげな瞳で、じっと私を見つめる。その目はとても冷たくて、私を震え上がらせた。それに声も無機質で、感情を感じさせない。


「誰だと思う?」

「知らない。どうでもいい。それより……」


 彼女は私から離れようと体を動かそうとしたが、それを強く抱き締めることで阻止した。


「っ……離して」

「嗚呼、なんて美しい……でも、ごめんね。でも、離す訳にはいかない。それに、鳥族の男のことはどうでもいいのかい」

「どうでもいい訳ない、あんたが邪魔なのっ!」

「おっと」


 私を殴ろうとする彼女の動きを察し、その拳を受けとめた。一応余裕を見せる為に笑って見せたが、実際はかなり手のひらが痛かった。

 レディとは思えないくらいの痛み、手の感覚が麻痺している。魔法を使わずともこれくらいの力強さを見せるなんて、ますます美しさを感じさせる。


「――アシュレイ! お前はそんな所で何をやっているんだ、彼女も嫌がっているだろう。さっさと降りて来い!」

「はぁ……バレてたか」


 仕方なく、私は抱き締めるのをやめた。

 本当は、彼女の美しさをもっと鑑賞していたかった。何時間でも何年でも、レディの美しい顔は眺めることが出来る。男にはない、美しさ。私はそれが――幼い頃から好きだ。


「気安く触らないで」


 そう冷たく彼女は言うと、鬱陶しそうに私の手から逃れた。魔法がある国の人間には珍しく、彼女は自分自身の脚力だけで着地した。


(忍者……って言ったっけ? それみたいだ)


 口伝えで聞いたことのあるイメージだけだが、彼女はまさにそれだった。弱々しく守りたくなるレディも魅力的だが、強くたくましいレディも華麗で美しい。それに、彼女はそんなに簡単なレディではないらしい。攻略のしがいがありそうだ。


(いいね、フフ。色々立場があって良かった。でなければ、絶対に出会えなかった)


 見下ろしながら、私はこの出会いに感謝した。


「……熊鷹」


 そして、無感情に冷たく、彼女はそう声を漏らすと鳥族の男を抱き寄せた。

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