叛逆の偽り者
―アシュレイ 森 昼―
(大丈夫だろうか……)
捜査の為、訪れたレイヴンの森のとある場所に向かって歩み続ける。考えないようにはしても、自然と懐かしい気持ちになってくる。ここは、忘れ去られた私の――。
「おい! 見つけたぞ。勝手な行動は慎め、我々は自然鑑賞に来た訳じゃないんだ」
背後から、苛立ちを隠し切れない先輩の声が聞こえた。
(よし)
捜査は、私一人で来た訳ではない。私の上司であるモニカ先輩と一緒に来た。私はその先輩を置いて、一人でずかずかと勝手に歩いていた。
でも、先輩なら必ず私を追ってここまで来てくれると信じていた。何だかんだ言って、こんな私を後輩として見てくれているのだから。
「先輩、さっき何か音がしませんでした? こっち、こっちです」
先輩がこちらに向かって来る足音が聞こえた、もっと歩く速度を上げなくては。ここで追いつかれて、手を掴まれて無理矢理引きずり戻されたら困る。
「何を言っている? そんな音、聞こえなかったぞ」
「いいや、聞こえました。ほらほら、こっちです」
そして、見えてきた。目的の場所が。
「はぁ、せめて報告してから行動して欲しいものだな。勝手にあっちこっち行かれたら、こっちが困るんだ」
「すみません、すぐに行かないとって思って」
(確か、この木で……)
私は、とある一本の木を見上げた。
「……先輩っ! 大変です!」
台本通り、予定通り、想定通りに私は慌ててその木の上を指差した。
「何? っ、これは……!?」
その状況から、何かあると察してくれた先輩は私の隣まで走ってきた。そして、驚愕の声を上げた。
「だから言ったじゃないですか、何か音がしたって」
その木の上には、傷だらけの鳥族の男と麗しい異国のレディが引っかかっていた。男の方は体に無数の黒い物が突き刺さり、その傷口からは血が滴り落ちている。一方のレディは、ただ意識を失っているだけのようだ。良かった。
(レディに少しでも傷がついていたら……あいつらをシメないとね)
「このままでは、男の方が死ぬ! とりあえず、先に男の方を下ろすぞ」
「え? 男が先ですか?」
「当たり前だろ! 手を貸せ、急ぐぞ!」
(嗚呼……だよねぇ。レディを少しとはいえ、木の上に放置するなんて心が痛むなぁ。でもまぁ、仕方ない。やるか)
今この状況で私が何をすべきなのか、詳しく言われなくとも分かった。収めていた翼を広げ地面を蹴り、宙に浮いた。そして、枝と枝の間に挟まった男を抱きかかえ、素早く着地した。
「酷い傷だな。体のあちらこちらに刺さっているこれは……カラスの羽か。可哀想に。急いで治療しよう」
先輩は気の毒そうな表情を浮かべ、鳥族の男に手をかざした。




