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曇らされた心

―マフィア拠点 朝―

 彼が出て行ったのを確認した後、僕は息を吐いた。


「はぁ……」


(疲れた……)


 堂々の殺害予告、怒らせるつもりは僕としてはなかったが、父上の真似をしたら必然的にそうなった。父上があんな態度をしても許されるのは、それに伴う実力や存在感があるからこそ。

 居場所を奪われた僕なんかがそんな父上の真似をしても、小物の挑発にしか感じないのかもしれない。


(ずっとこれなのか、ここにいる限り。というか、何をすればいいんだろう。黒幕って言ったって、どうすればいいのか。いつまでやればいいのか……)


 前任者のアレンさんには真似することの重要性しか言われなかったし、僕自身には大した役目はないのではないだろうか。


(大した役目がない。まぁ、未熟で愚かな僕にはそれくらいが十分か)


 何か重要な役割をこなせるくらいなら、僕はかつての居場所を失わずに済んだはずだ。何か秀でているものがあったなら、必要とされたはずだ。

 けれど、僕にはなかった。生まれついた凡庸さは消えなかった。親が優れていても、その子がそれを受け継いでいるとは限らない。それを、僕の人生で証明した。


(何を余計なことを考えてるんだ。ここでならもうそんなことは関係ないんだよな。いれば必然的に居場所になる……あんまり余計なことを考えなくていいよね。そもそも、アレンさんもそうしてたんだ。僕はいるだけでいい、そういうことだよね)


 何をせずとも、何も成せなくても居場所がある。小さなこの場所で、僕は生きていける。


(でも、僕はアーリヤ様の為に何かを成したい。それくらいしないと、心が落ち着かない。恩返しの一つくらい、やらないと)


 アーリヤ様に気付かせて貰った。僕の今までの無意味さを。どうして気付けなかったのだろう、僕を必要としない国の為に頑張る意味はないということに。


(小鳥……僕には無理だよ。何も出来ないよ。もう、どうせいないんだ。僕がペンダントを持っていたってしょうがない、よね。そういえば、扉も……)

 

 ずっと隠し持っていた異世界へと繋がる扉。魔法を使って持ち運ぶのも、それなりに魔力を継続的に消費するので疲れる。疲れやすさもそれが関係している。使える魔力の限度が出てくる。

 もう、こんなおもりはいらない。僕は、ずっと隠し持っていた扉を取り出した。遥か昔からあったとは思えないくらい綺麗で、木という素材で作られている事実が信じられなくなる。


「邪魔だな」


 何故、今までこんな物を大切に持ち運び続けていたのだろう。今の僕にはただの粗大ゴミにしか見えない。持っていても何も出来ない。捨てるのも手だが、この扉は傷一つどう足掻いてもつけられないので変な騒ぎになってしまうかもしれない。なってもいいが、その騒ぎを起こしたい時に使うべきだろう。それが、この扉の最後の存在意義。

 それまでは、とりあえずここに置いておくのも手だろう。


「行くか」


 僕は元々使われていた扉を蹴り飛ばし、持っていた扉に付け替えた。

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