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足ふきマットさん

―マフィア拠点 朝―

(怒ってるのか? 僕に……)


 当然ながら、その理由は分からない。記憶にある限りでは、間違いなく初めて会った。けれど、彼のこの反応は初めて会った人にするものではない。


(参ったな。でも、演じないと真似をしないと……父上だったらどうするだろうか)


 とりあえず謝るべきかと考えたが、理由もなければ根拠もない謝罪を父上は絶対にしないだろう。僕ならともかく、父上は絶対に中途半端なことはしない。

 

(記憶にないけど、僕が何かやってしまった人。そのせいで怒ってる。父上だったら理由を聞くだろう。よし……)


 僕が、父上の真似をする覚悟を決めた時であった。


「おめぇ……おめぇのせいで、私はぁぁっ!」


 彼は突然、僕に向かって突進してきた。こちらに手を向け、何かしらの魔法を使う気だ。僕は、防御魔法を使ってそれを防ごうとした。その時であった、体からアーリヤ様から頂いた力が溢れてきたのは。


「ぐはっ!?」


 僕は特別なことは何もしなかった、いや出来なかった。感じたことのない感覚に戸惑ってしまった為だ。ただ、そこに立って向かってくる彼を結果的に眺めていただけ。

 だが、彼は突如僕の周りに現れた紫色の壁にぶつかり倒れた。


「これは……!?」


 思わず、心の声が漏れてしまった。


「は~やれやれ、ゴミからは俺達に触れられないって何度も言ってるでしょ。惨めだねぇ、仮にもマフィアのボスが簡単に無様な格好を晒しちゃうなんて。まぁ、ジョーンズ一家は一族揃って無様な格好晒し癖あるもんねぇ。その度に、俺がこうやって足ふきマット代わりにしてきてあげたもんね」


 アレンさんは柔らかな笑みを浮かべながら、床に伏せているロイさんの背中を踏みつけた。


「ぐっ!?」

「でも、今日からロイ、君を足ふきマットにするのは俺じゃなくて――彼だよ」

「それは……何故っ」


 彼が踏みつける力を大きくしているのが、遠目から見てるだけでも伝わった。ロイさんは苦悶に満ちた顔で、じっと僕を睨む。彼にそれを向けられないのは体勢のせいではなくて、植え付けられた恐怖という感情があるからだと思った。

 だが、僕にはない。だから、踏みつけられている怒りも含めて僕にまとめて静かにぶつけてきている。


「単純に言えば、今日から君達の管理をするのが彼になるからかな。ちゃ~んと、いい足ふきマットになるんだよ。骨折もちゃんと治してね」

「は、はい……」


 彼はそう言って、ロイさんを踏みつけるのをやめた。ロイさんは本当にボスなのかと思ってしまうくらい、弱々しく見えた。


「うんうん、いい子いい子。じゃ、タミ。仲良くね、忘れちゃ駄目だよ。さっき言ったこと」


 そして、アレンさんは僕の方に顔を向けると一度優しく微笑んだ。血すらなければ、本当にいい笑顔だ。


(父上……だったら)


「あぁ」


 素っ気なく簡単に余計なことは言わず、こう答えただろう。


「……フフ」


 彼はそんな僕の真似事を見て満足したのか、小さく一度頷いた。その瞬間、彼の立つ場所が異空間への扉を開くように黒く歪んだ。


(あの子が使ったのと同じ……これがアーリヤ様から頂いた力によるものなら……僕も使えるのか?)


 瞬間移動とは少し勝手が違うようだが、体に負担をかけないとしたらそっちを使いたい。そう思い、やり方を聞こうとしたのだが――その前にその黒い空間に彼は吸い込まれるように消えてしまった。


「くそ……くそがっ! いつか必ず……!」


 そして、彼が消えたのを確認した後、ロイさんは負け犬のように言葉を漏らした。

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