因縁の再会
―マフィア拠点 朝―
「また汚れちゃったなぁ、ゴミの血なんて何の勲章にもなりゃしないのに。やれやれ……あ、君もちょっと汚れちゃった? ごめんね~つい」
彼はエントランスホールで足をとめ、ヘラヘラと笑いながら血で汚れた顔をハンカチで拭き始めた。そんなもので拭き取れるような汚れでないことは明白だ。
現に、その小さなハンカチはもう血を吸収し切って真っ赤だ。拭いても、ただ血が広がっていってるだけのように見えた。
「貴方ほどじゃないですし、水で流せばすぐに取れる程度ですから……」
目に見える範囲では、だが。それでも間違いなく彼よりはマシだ。服についてしまった分は、魔法で何とか出来るだろう。
「まぁ、そうだね。というかさ、貴方なんて言い方気持ち悪いからやめてよ。俺の名前はアレン、普通の人間さ。アーリヤ様にこう見えても……何百年と仕えてる。人生経験豊富だから、何でも聞いてね!」
アレンさんはウィンクを決めた。ウィンクをする時に両目を閉じたりしなかったし、相当し慣れてるんだろう。
(さらりと凄いことを……どこに反応すべきなんだろう。自己紹介した方がいいのかな)
「よろしくお願いします、アレンさん。えっと、僕は――」
「タミって呼んであげるよ。そっちの方がいいんだろ?」
隠し切れる真実などない――アーリヤ様の得た情報は、あの少女や彼にほとんど共有されていると考えた方がいいのだろう。別に、今の僕にその真実も嘘も関係ないが、こっちの国では偽名の方を使い続けた方がいいかもしれない。本当の自分との決別の意も含めて。
「まぁ、はい」
「あ、もう舞台の幕は上がってるからね。もう君は演者だ。ちゃんと演じるんだよ、理想の人を」
「……そんなことを言われても」
「完璧に真似ろとは言ってないさ。ただ自分を偽るなら、誰かを真似してみた方が楽だろ? 君の場合。そういう意味で言った訳さ。フフ、頑張って」
彼は真っ赤に染まった顔に満面の笑みを浮かべて、不気味さを増大させる。
(怖い……人は見た目によらない、か)
もしも、常日頃からアレンさんも誰かを真似て演じているのだとしたら、本当の彼は一体いつ現れるのだろうか。
僕は器用ではない、いずれ偽りの自分が本当の自分を喰ってしまうのではないか、中途半端な真似をして結局オリジナルな存在を作り上げてしまうのではないか――そう思った。
「お~い、ロイ~! どこー! 例のお客さん、連れて来たんだけど~!」
アレンさんはハンカチを顔に当てながら叫び、辺りをウロウロと歩き回り始めた。どうやら、ここには住人がいるらしい。あのガラの悪い男性達のボスだろうか。
「……すみません! でも、来るなら連絡して下さいよ。色々準備が……っ!?」
すると、目の前のドアが開いてそこから右腕にギプスをつけた一人の男性が現れた。彼は焦りの表情を浮かべていたが、僕を見てそれを一変させた。
驚愕の次に、憎悪に満ちた表情を向けたのだ。そして、慌て出てきたはずなのにドアの前で立ち止まり、左手を強く握り締めていた。




