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首と体を分断し

―コットニー地区 朝―

 外に出ると、目の前には白い煉瓦の世界が一面に広がった。街並みは白一色に統一されていて、少し気味の悪さも覚えた。


「ここは昔から変わらないんだ。いや、変えられない場所……それがコットニー地区さ。ほら、見てご覧」


 そう言うと、まるで観光案内でもするかのように金髪の男性は街角を指差した。その指の先には、傷だらけの黒髪の中年くらいの男性が横たわっていた。


「……あれは?」

「カラスだよ。多分、仕事でやらかしたかストレスのはけ口にでもされたんだろう。あのゴミ共に。君はあれを見てどう思う? 可哀想だと思う? それとも、無様だと思う? もしくは何とも思わない?」


 傷だらけのカラス、僕にとってはただの他人。顔見知りでもなければ、親族でもない。だから、だろうか――何とも思えない。


「別に、何とも」

「……フフ、そう。そのままの関係でいければいいんだけど。さて、見えて来たね」


 傷だらけの男性をどうすることもなく、その横を通り抜けると少し開けた広場のような場所が見えて来た。そこには、明らかにガラの悪い男性達が集っていた。


「この人達は?」

「ゴミ共だよ。ここを表向きに取り仕切ってるマフィアの皆さんさ、今日から君があいつらの黒幕になる」

「黒幕?」

「ボスは既にいるからさ、ややこしいだろ? ま、特別なことは何もしなくていいよ。ただ椅子にふんぞり返って、ボスを足ふきマットにすればいいだけだから」

「はぁ……」


 僕らが、そんな会話をしながらガラの悪い男性達の前に行くと一本の道が出来た。彼らが道を急いで開けたのだ。人間が道を自主的に作る光景など、初めて見た。

 そして、その道の終わりには少し立派な建物があった。どうやら、ここに用があるらしい。


「おはようございます!」

「おはよっすぅ!」


 その道を通っていくと、彼らは各々バラバラに挨拶をし始めた。ただその挨拶は僕ではなくて、間違いなく僕の前を歩く金髪の彼一人に向けられていた。

 僕はと言うと、怪訝な表情で睨まれる程度であった。強面な彼らに睨まれるなんて、血の気の引く思いだ。


「なんだあいつ」

「おいおい、あいつってよぉ……」

「カラスか?」

「いや、目の色がちげぇ」


 僕にもギリギリ聞こえるか聞こえないかくらいのヒソヒソ話、どうやら僕に向けられているのは疑念らしい。何故、彼の後ろを僕が歩いているのかが分からないのだろう。僕自身もよく分かっていない。

 睨みつけてヒソヒソ話す以外のことは、彼らは何もやってこなかった。いや、出来ないと言う方が正しいのかもしれない。


(一人になった時とか大丈夫かな、こんな怖そうな所を任せられるなんて。僕ここに来て一日も経ってないのに……)


 今、彼らが何もしてこないのは、金髪の男性がいるからだろう。彼の前で下手なことはやってはいけない、そんな恐怖の感情が僅かながら伝わってきた。


(この人は一体何者なんだろう? 見た目だけだったら、圧倒的に周りの人達の方が怖いし。僕なんかじゃ、器不足なんじゃないかな)


 こんな見るだけで怖い集団に恐れられているのだ、怒らせたりしてはいけない人なのかもしれない。今の姿だけでは、到底そんな風には思えないが。


「あ~ウザいな」

「ぐがぅっ!?」


 何の脈絡もなく彼は突然、手で空を切った。唐突であり一瞬で、理解がほとんど追いつかないが状況を説明すると、その手の動きによって彼の近くにいたガラの悪い男性の首と体が離れ離れになっていた。

 その時に血が飛び散って、金髪の彼も周囲にいた者達も鮮血で真っ赤に染まっていた。僕も少しそれを浴びた。ただ、こんな状況なのに戸惑っているのは僕だけだった。


「言いたいことがあるならはっきり言わないと、ヒソヒソ話とか大嫌いだから。よく分かったね? よし、じゃあ行こう」


 彼は一度振り返り、僕に真っ赤な顔を向けて微笑むと何事もなかったかのように進んで、目の前に大きく構える建物の中に入って行った。


「え……えぇ、ま、待って!」


 出来た血だまりの上を飛び越えて、僕は急いで彼の後に続いた。彼が、恐れられる理由の一部が分かった瞬間だった。

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