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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第十三章 邪悪な手
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デザイアの魔女

―アリア 森 夕方―

(……嘘)


 声が漏れてしまいそうな口を必死に押さえて、私は木の陰に身を潜めていた。


(タミがあの子に……!)


 森の様子がいつもと違うと感じて、興味本位で行ってしまった。森を薄気味悪い霧が覆い、空は奇妙な紫色。さらに一定の方向に進むと、どんどん邪悪な力を感じた。

 そして、私は見てしまった。タミが魔女――アーリヤの力に飲み込まれていくのを。私は弱い。それに、怖くて助ける勇気が出なかった。腰を抜かして、自分を守ることに精一杯だった。たった一人の友人を見捨てたのだ。


(どうしよう……!?)


「フフ、わらわがそなたの新たな居場所となろう――」


 そう響いた瞬間、全てが嘘のように森を覆っていた霧が消え空もオレンジ色に戻った。殺されてしまうのではないかと思うほどの大きくて邪悪な力も消えた。


(いない!?)


 恐る恐る木陰から覗いて見てみると、もうそこにはタミもアーリヤもいなかった。


(何かある……!?)


 二人が消えた代わりに、不自然に小さい光を発する何かがそこに落ちていた。私は急いで飛び出すと、それを拾った。


「タミがつけてたアクセサリーだ……」


 私の見る限り、タミは一時も欠かさず大切そうに見につけていた。かなり高価な物であるようで、近くで見ると繊細に装飾がなされていた。


(私は一体どうすればいいんだろう……)


 どこかに連れ去られるように消えてしまったタミ。手がかりは、落ちていたこれしかない。


(だけど、私一人でどうにか出来る相手じゃない。私は一人。下手に外に出てしまえば、捕まってしまうかも。今の私には敵しかない。陸を支配する人間に加えて、彼女まで敵になるなんて……)


 私は葛藤していた。あの紫のオーラをまとった女性。彼女は、かつて人間と鳥族の分断の要因を作ったデザイアの魔女、アーリヤだ。

 よく覚えている。あの日、あの時の惨劇と狂気を。たった一人の心の隙に植え込まれた毒が、手を取り合っていた二つの種族の仲を修正出来ないまでに壊した。その爪痕は、今も尚残っている。

 そして、混乱の最中、彼女は勇気ある者達に封印された。しかし、十数年前その封印は解かれてしまった。何者かの手によって。


(怖い。力を取り戻しつつある彼女に、私が叶う訳なんかないわ。この身体では……上手くコントロールが)


 憧れの為、本来の体を手放した私にはあの強大な力を操る彼女を倒せる自信がなかった。人間としての私はまだ未熟、学び切る前にこんなことになってしまった。本来の場所を離れた罰、だろうか。


『アリア、お前が人間になりたい理由はなんだ?』

『お友達が欲しいんです』

『人間の身体に転生すれば、お前はあらゆる力に干渉されることもあるだろう。それでも、か?』

『はい、お友達が出来るなら……』


 言い訳をして逃げようとしていた時、ふと過去のことを思い出した。お父さん達――彼らに伝えた思いのことを。どうしても欲しかった友達、見えない私を見て欲しくて。偶然、私を見ることが出来た一族に助けを求めた。娘を失ったばかりの彼ら、人間になりたかった私――利害が一致した瞬間のことを。


(何を言っているの! こんなんじゃ駄目、私は友達が欲しくて人間になったんだ。ここで、ようやく出来た友達を見捨てるなんて馬鹿げてる。守って貰ってばかりじゃ駄目だ、強くならくちゃ)


 今更、もう何も失うものなんてない。例え、あらゆる脅威が私を襲ったとしても――タミを救いたい。

 あの力に侵されれば、皆傀儡(かいらい)となる。


(きっと、あれだけの強大な力を注ぎ込まれた彼は……もう。でも、そのままにさせてはいけない! ずっと会えなかったんだ、色んな話がしたい……!) 


 そして、私はひっそりと覚悟を決めて森を飛び出した。アクセサリーをしっかりと握って。


(守って貰ってばかりいた人生はもうおしまい、今度は返す番!)

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